素晴らしき世界 (2021/2/17)

文字数 1,074文字

2020年11月13日 第1刷発行
著者 マイクル・コナリー MICHAEL CONNERLLY  訳 古沢嘉通
講談社文庫



「ボッシュ&バラード」シリーズと銘打たれ、ちょっとだけ残念な気持ちになった。
というのは、「レイトショー」でデビューした女性刑事レネイ・バラードに大きな期待を持っていたから、今更ながら老練ハリー・ボッシュとその魅力を分かち合うのは心底勿体ないと思ったからである。
レネイ・バラードがパワハラ&セクハラで追いやられた墓場シフト(00:00-7:00)での刑事物語は小説では前例がないわけではないが、ヒロインポリスストーリーとしては異色の設定だったしハワイ出身のサーファーデカという設定も興味津々、夜間勤務の後ビーチで愛犬と睡眠をとり、パドリングする・・・というシーンに感銘していたうえ、海に出たきり戻ってこない父、行方不明の母の設定もこれからのお愉しみだった。

もちろん、ボッシュと組むことでこれらのレネイ秘話が打ち捨てられることはないだろうが、僕の一番お好みの女性刑事物語はいくぶん、その魅力が失われた思いになった。
そんなリニューアル作においてもマイクル・コナリーらしいスピーディで未知の捜査展開を体験できる、これは間違いなかった。
マイクル・コナリー作品の常道であるが、本作も前作から引き継いだトラウマ事件に取り組む刑事たち、コールドケースの少女殺人事件を執拗に追いかけるハリー・ボッシュ、夜間シフトで巡り逢う犯罪者に厳しく対処するレネイ・バラード。
そんな中で二人が遭遇し協力し事件を解決する、ご都合主義とは言えこれはこれで血沸き肉躍る展開だった。

どうやら、このボシュ&バラードはボッシュシリーズにとって代わるものになるらしく、次回にはここにリンカーン弁護士も加わってのオールスター物語になるとのこと、まだまだマイクル・コナリーからは目が離せないようだ。

ところで、つい最近観た邦画「すばらしき世界」とタイトルが似ている(漢字表記の違いがあるが)。
シネマは役所広司さん主演のどうしようもない極道の更生物語りの悲劇だったが、本作の日本語タイトルは敢えてこれにぶつけたのだろうか? 本書の原題は「暗き聖夜」、耐えられない不条理に満ちた世界、そこに生きるしかない人間のかすかな希望を逆説表現したものだろう。
シネマ「すばらしき世界」からも本書「素晴らしき世界」からも僕は同じようなメッセージを感じ取った。
2020年から続いている希望の見えにくい世界、だけどそこで戦い生きていく人々は
「すばらしき(素晴らしき)世界」に生きているのだろう、きっと。
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