靴の話 (2015/9/18) 

文字数 661文字

1996/6/25 第1刷、2015/6/6 第8刷
著者:大岡昇平
集英社文庫



「終戦70周年記念ブックレビュー その2」は、
「野火」、「俘虜記」の大岡昇平短編連作集です。
太平洋戦争に巻き込まれていく中年兵士の個人感想、感情に溢れる貴重な戦争記録になっています。
各章タイトルは、
●出征 ●暗号手 ●襲撃 ●歩哨の眼について ●捉まるまで ●靴の話 
召集、入隊、輸送、戦闘、捕虜の経緯が日記風に書かれています。
負け戦に死を覚悟した文学者のシニカルで研ぎ澄まされた観察は、黄泉の国からの便りのように恐ろしく、冷徹です。
著者は近衛師団で3カ月の即席訓練を受けただけの、
文字通り人数合わせの補充兵だったようです。
中年の体力の乏しい兵士たちがフィリピンで戦ったわけです。
部隊で最初の捕虜になってしまった著者は、ここでもその状況を詳細に説明しています。
その直前に若いアメリカ兵を撃ち殺さなかったエピソードについて
自らの考察に押しつぶされそうです。
戦場においても「殺すこと」は単純なことではないのでしょう、
こればかりは経験したくはありませんけど。
表題の「靴の話」は死んだ仲間の靴を盗んだ話、
そこには哀しいほどの靴が語る事実が見えてきます。

ところで、著者のはいていた靴なのですが、
この時期の補充兵にはゴム底鮫皮の軍靴が支給されていました。
ミンドロ島のジャングルに入ると、ゴムは植物に、鮫は動物に戻り、
滑りやすく水を吸収する代物になったそうです。

戦争に負けると思いながらも、貧弱な装備で戦わされる不合理、
国家への不信が痛いほど伝わってきました。
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