あなたが消えた夜に (2015/6/11)

文字数 774文字

2015年5月20日 第1刷、5月25日 第2刷
中村文則
毎日新聞出版



警察小説と純文学の美しくも壮絶な合体としか表現のしようがなかった。
高村薫さんの「マークスの山」から続く5作の中で語り続けられている、犯罪者と刑事から見つめられる人間の不合理の歴史を、この1作はあっさりと超えてしまった。

中村さんの作品は「掏摸」のみしか読んでいない。
当該作は、NYウォールストリートジャーナル2012年ベスト10に入った
・・・というミーハー興味で読んでみたが、
僕のタイプではいと判断した思い出がある・・・・そして本作。

「コート男」なるマスコミ命名の連続通り魔殺人を追う捜査本部の刑事ペアー(所轄の男と本庁の女性)が冒頭から活躍する。
はて、このポップ仕様は純文学標榜の作者からは編み出されない意外な展開ではないか
と思う間もなく、
事件はどんどんと表層が剥がれていく。
この過程には、名探偵ミステリー手法(ホームズ、ポア、レーン)を果敢に中村文学に取り込むような違和感さえある。
作者の他の作品を知らないので何とも言えないが、警察内部の軋轢、抗争を描きだすに至っては、今までの警察ミステリーとどう違うのかと思う始末だった。

とはいえ、その犯罪の仕組みは見事に緻密に構成されていた。
前のページに戻って確認するくらい伏線が張られていること、
ここで扱われる犯罪自体が複数のレイヤーが絡まっていることなど、
上質テイストを証明していた。

そう、ミステリーとして、きっちり知的要求にこたえてくれるプロットだった。
そして、ミステリーの重層を一気に貫いてしまう犯人のモノローグが後半に至り
犯罪捜査を「愛と神」の世界に誘う。
決して難しいことを説明しているわけではないが、ずしりと重たい想いが読み終わったあと居座っていた、ちょっとの安心と一緒に。

警察犯罪小説の傑作と言い切る、僕の長年にわたる見識で。
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