犯罪小説集 (2016/11/3)

文字数 540文字

2016年10月15日 初版発行
著者: 吉田修一
KADOKAWA



近年クライム小説での新境地が目覚ましい著者だからこそ、さらなる新しい試みに挑戦できるのだろう。
すでに大きな話題になった「悪人」、「怒り」においても犯罪小説としての定説を覆してきた。
「悪人」では犯罪者の心情に間近に迫った。
「怒り」では犯罪者を特定することなく、その動機すら捨て置き、代わりに犯罪者にコンタクトする一般人の心の奥底に手を伸ばしていた。
そして本作品集は、もう一歩進んで犯罪そのものよりは、発生の時間軸と人間関係軸を揺れ動かせながら犯罪の構造を見つめようとしていた。

作品集は中編小説というむつかしい形式にこだわっている。
5つの犯罪エピソードが取り上げられている、どれも過去にメディアを賑わせた事件から
インスパイア―されたものだろう。
①青田Y字路 :女子小学生行方不明
②萬壽姫午睡 :同級生の殺人事件
③百家楽餓鬼 :海外賭博場で会社の金を散財
④万屋善次郎 :過疎村での大量殺人
⑤白球白蛇伝 :元野球選手の転落人生

無論これら五作は現実犯罪の再現ではなく、そこには吉田修一風味がふんだんに盛り込まれている。
どんなきっかけで、人は犯罪者になるのか?
犯罪は常に周りからはまるで不可解なこと、そこに読み手は惹かれるのか?
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