開幕ベルは華やかに (2014/2/22)

文字数 772文字

2013年12月10日 第1版
文春文庫
著者:有吉佐和子



「華岡青洲の妻」、「恍惚の人」、「複合汚染」の有吉さんが
ミステリーを書いていたとは今まで知らなかった。
毎日新聞書評で「縁起のいい本」として紹介された中の1冊。

帝劇の主演女優を殺害する、2億円出せばよし・・・・
といういかにも拙劣な犯罪をテーマにしている。
そして実際に観客が見せしめのために殺害される。
ミステリーのお約束の名探偵役は、いきなりの警視庁捜査第1課長、
それも異例のキャリア課長(このポジションは叩き上げの最高峰なのだけど)。
その親友が劇の演出家、その別れた妻が原作者、最後には退職した名物刑事まで登場する
ドタバタ劇になっている。
うーん、これは喜劇なのか。
事件の解決もいかにも唐突で強引、ミステリーとすれば評価は低いのだが、
さすがの有吉作品はちょっぴり違っている。

事件の山場に上演される劇は男装の麗人「川島芳子」の物語。
演じるのは歌舞伎界の長老「中村勘十郎」と大女優「八重垣光子」、
二人とも70歳を超えた老俳優。
このモデルは、歌舞伎17代 勘三郎と新派の重鎮 水谷八重子だとすぐにわかる。
この二人の素顔と舞台での変身、そしてしたたかな芸の衝突が細かく面白く描かれる。
これに作者、演出家、個性ある脇役たちもが生き生きと絡んでくる。
これはミステリーの形をした演劇界バックヤード物語だ。
女優が勝手に台詞を変える、台詞はすべてプロンプター任せにもかかわらず。
作者はそれに感動する、演技を変更された演出家も女優の貫録に感服する。

どうやら、有吉さんの実体験がベースにあるらしい。
「華岡青洲の妻」の舞台をこのお二人がつとめている、昭和48年のことらしい。
そう思って読んでいくと演劇が大好きだった有吉さんの微笑みが目に浮かんでくる。
ミステリーの出来具合なんて、はなから気にしてなんかいなったのだろう。
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