あの日 (2016/2/4)

文字数 925文字

2016年1月28日 第1刷発行
著者:小保方晴子
講談社



突然の出版に驚きながら、さっそく読んでみたのは当該事件に関して当事者小保方さんの言い分を僕は全く聞かされていないに事に気づいたからだ。
もっと言うと、「スタップ細胞はありま~っす」といういかにも幼稚な声しか記憶にないことに気づいたからだ。
あの時の熱に浮かされたような騒動は一体何だったのか?
本書は著者のたまりにたまった不満、不信、愚痴、後悔が綴られている。
15章のうち4章までは著者の華々しい研究実績が記され、
それ以降は理化学研究所内でのスタップ細胞騒動が克明に暴露されていく。
その内容は当然僕が知らないことばかりなのだが、奇妙に僕にはあるイメージが
形成されていた。

それは、マスコミによって操られたものでしかなかったことが明らかになる。
そう、またもやメディアの強権であり、メディアの暴力があの時吹き荒れていたのだった。
著者は名指しで、メディアを非難する、NHK,毎日新聞、週刊文春、週刊新潮
・・・すべてのメディアを。
僕が一番勘違いなイメージを持っていたのは「小保方さんがスタップ細胞発見の責任者」という点に尽きる。
著者はその時、理科研の若山研究室のポスドクでしかなかったことは、嵐のようなマスコミ報道の中で上手く消し去られていた。
記憶に残る、かっぽう着姿やピンクのクリーンルームは、スタップ細胞開発後の異例の出世によるささやかなご褒美でしかなかった。
マスコミは、異質なものを持ち上げてみせる。
マスコミは自分の理解を超えるものは単純化するのが使命だと思いあがっている。

このマスコミの暴力に逆らえる人間はめったにいないだろう。
実際僕は毎日その残骸となった、芸能人、スポーツ選手、政治家をいやというほど目の当たりにしてる。
著者には、加えて日本を代表する先進科学組織という、体面を気にするドロドロした縦社会、男社会が敵対してきた。
勝てるはずもない戦いに消耗し、朽ち果てる著者の様子が執拗に細かく記録されている。

それは、まるで無実の罪で毎日取り調べを受け、とうとう刑に服することになった冤罪者を思い抱かせる。
著者の言い分が正義かどうかは判定できないが、このような機会を作った講談社の判断を強く称えておきたい。
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