わたしの心のレンズ 現場の記憶を紡ぐ (2023/7/22)

文字数 798文字

2022年6月12日 第1刷発行
著者:大石芳野
インターナショナル新書



いま迄知ることもなかった著者の本を読むのは大きなリスクが伴うのは、今更のことではないが、時折衝動的にその誘惑に負けてしまうものだ。
本書は毎日新聞での好評価に頼って手にした。

著者は50年以上世界の紛争地を巡り歩いた写真家・ノンフィクション作家と思われるが、その実態は好奇心旺盛なフィールド研究者のように思えた。
そんな活動家がコロナ騒動で行動を抑えられ、鬱積した思いを書き記したのが本書のようだ、この2~3年全世界が経験したコロナヒステリーの一種と言えば少し厳しすぎるだろうか。
現場にたどり着けない、人と接触できない、取材できないストレスからとりとめのない過去の取材物語を書いて鬱憤を晴らしている。

ベトナム、アウシュビッツ、ワルシャワ、カンボジア、広島、長崎、ニューギニアでの感動を懐かしさと共に再現するのだが、そこには構成の形はない。
ただただ思いつくまま、家の中で自主隔離した暇を消費している。

致命的なのは、文章に何の魅力もないことだった。
文章は作家の人格すべてを表現するものだと信じるものとしては、いかに貴重なインタビューであろうと秘話であろうと読み手を刺激する文章でない場合は、かえって興ざめする。
そしてエピソードが重複され、同じ修飾語が繰り返される。
最初は写真家だから仕方がないのかと思って我慢しようと思ったが、別段写真集ということでもない。著者にとって、しかしながら、本書が初めての本でもないというから、素人の稚拙という言い訳も利かない。

作品のテーマにしても、そのコンテンツにしても、ぼくですら一度以上見聞きしたものばかりだった、特段目新しさもない。
繰り返しになるが、本書は誰もが初めて経験したコロナ渦のヒステリー症そのものだった。
本書を書き終えて著者が心安らかになるのであれば、それはそれで意味のあることではあるけれど。
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