メインテーマは殺人 (2021/12/18)

文字数 910文字

2019年9月27 初版 11月1日 4刷
著者:アンソニー・ホロビッツ   訳:山田蘭
創元推理文庫



「カササギ殺人事件(2018年)」は日本のミステリー賞7冠達成の話題につられ、僕も読ませていただいた、一般評価に楯突くつもりはないが、僕の好みのスタイルではなかった、ただ古典とモダンのハイブリッドミステリーという印象が強く残っている。
なのに、またぞろ手を出した
・・・というよりも、今度こそは何か僕の退屈な想いに応えてくれるのではないかという、新型コロナパンデミック下におけるストレス発散の期待も少なからず抱いていた。
やはり今の小説はカジュアル化、エンターテイメント指向に向かっているのだなと本書を読み終えた今、時代の大きな変遷をつくづく感じているところだ。

本書の第一の、そしてすべての特徴は著者一人称ドキュメンタリー形式で物語、事件、捜査、推理が進み、ミステリーならではの謎ときカタルシスに至るところにあり、実名で事件を取材する著者と、相棒の探偵(ここでは元殺人課警部)のコンビのやり取りが新鮮と言えば新鮮に感じられる。
この手の手法はギョーム・ミュッソの「作家の秘められたる人生」でも部分的だが効果的に活用されていたが、本作のように著者本人が堂々と物語の幕開けから出てきて小説作法を説明しながら、この特殊な方法を自問自答する葛藤は僕には思いがけないものだった。
ということで、読み始めたにもかかわらず興味が途切れがちになる、それは肝心のミステリーが仕掛けるディテイルを踏みしめて進むオーソドックスなお愉しみを捨て、著者の案内で引き回される不毛の作業になってしまった、無論読者として僕の責任であるけれど。
殺人事件の顛末、詳細を論じる野暮は今回も避けるが、著者が目論むクリスティワールドにはまだまだ程遠いミステリーの仕掛けだった。
著者本人の出版、TVドラマ、シネマにかかわる業界ネタが本作を差別化しているのかもしれないが、逆に軽薄になっているのも事実、このホームズ・ワトソンもどきコンビはシリーズ化されている、一歩譲って、このようにカジュアル化を徹底していくのも一つの戦略かもしれない、
何度も言うが時代は変わりつつあるのだから。
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