橋を渡る (2016/4/3)

文字数 841文字

2016年3月20日 第1刷発行
著者:吉田修一
文藝春秋



芥川賞作家の吉田修一作品をして、小松左京タッチ異次元物語を思わせる
・・・などといっては決して褒め言葉にはならないのかもしれない。
しかし、僕としてはとっておきの称賛の言葉である。
本作は4章、「春 明良」、「夏 篤子」、「秋 謙一郎」、「そして、冬」という
意味深長な四季仕立てになっている。
(ここで若干のネタばらしをするので、これから読まれる方はご注意)
1~3章で、2015年日本の日常に生きる3人(とその家族たち)の物語がなんの関連もないように進められる。
「春」では、DINKS夫婦のとりとめのない似非平和家庭の中にぽつりと落ちた暗い水滴の波紋のようなものが示唆される。
「夏」では、夫の行動を信じていたい妻と、無能に近い地方議員の実態に感じ取れる平和への危険を察知する。
「秋」では、ジャーナリストの目に映る民主主義の脆さ、遺伝工学における人類の危うさ、そして人の感情の傲慢さを嗅いでしまう。
「そして、冬」では、舞台はは一気に70年後、2085年の日本になっている・・・そこでは:
結婚の進化形、ロボットとクローン活用、リニアの普及、高度な管理社会、
そして国防組織が実現されている。

この70年後という皮肉を吉田さんは意識して訴えかける。
2015年の70年前は1945年、戦争が終わり新しい国を再建すると心の強く誓った人たちにとって、
2015年はどんな世の中になったのか?
それでは70年後2085年に後悔しないために、今僕は何をするか?
なるほど面白い構成の小説になっている。
吉田さんお得意の、だれにも割り切れないような男女関係や、
懐かしい日本の原風景もいっぱい楽しめて、かつ、時間の流れを変えてでも
正しい歴史を作るという壮大なSFコンセプトも同時に楽しめる。

パキスタンの少女アマラさんの言葉
「一人の子供、一人の教師、一冊の本、そして一本のペンでも、世界は変えられる」が大きなテーマになっている。
今年話題作であり、吉田修一最高作と思った。
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