逃亡者 (2020/4/30)

文字数 660文字

2020年4月15日 第一刷 発行
著者 中村文則
幻冬舎



いま感染症パンデミックのなかで刊行された中村文則新作は彼自身のルーツも含めた壮大な歴史小説になっている。
とはいっても語り口はあくまでも「中村文学」を外すことなく、不条理であり幻想的であり現状批判に満ちたいつもの様な快刀乱麻である。
著者自身が「いつか書くと決めていた」と帯の宣伝コピーに記しているとおり今までの彼の思想と趣向がたっぷりと注ぎ込まれている。
キリシタン迫害から太平洋戦争末期のフィリピン、そして現代につながる物語のなかには、文字通り「ファナティシズム」と呼ばれた幻の軍楽隊トランペットにかかわる人間をすべて不幸にするという魅力的な恐怖、そのトランペットを利用してもう一度国民を鼓舞しようとする国粋政治家とその黒幕の宗教団体、その秘密を世間に明らかにしようとするジャーナリストに仕掛けられた権力の仕置、そして、これら多様な素材を包み込むジャーナリストとベトナム人少女との悲恋、その悲恋をも超越する戦時下におけるトランペット奏者と恋人の永遠の愛情物語、現在と四半世紀前の二組の恋人たちの運命を操る隠れキリシタンの血、サスペンス、ミステリー、カルト、遂げられない愛…中村文学のすべてが此処にある。

「銃」、「土のなかの子供」、「何もかも憂鬱な夜に」、「悪と仮面のルール」、「王国」、「去年の冬、君と別れ」、「教団X」、「あなたが消えた夜に」、「R帝国」 から綿々と続いてきた中村ワールドのひとつの集大成だろう。
本作は必ずノーベル賞獲得の大きな弾みになるに違いない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み