世界を救う100歳老人  (2024/4/15)

文字数 1,353文字

2019年7月6日 初版第1刷発行
著者:ヨナス・ヨナソン  訳:中村久里子
西村書店


「窓から逃げた100歳老人(2014)」、「国を救った数学少女(2015)」、「天国に生きたかったヒットマン(2016)」、「華麗な復讐株式会社(2022)」・・・一連のヨナソン荒唐無稽作品が好きだ。

特に大ぼらエピソード第一作の「窓から逃げた‥‥」は100歳の老人の冒険譚がこれでもかと詰め込まれ、ただただ呆れかえるばかりだった強烈な思い出がある。
たとえばこんな風に・・・・
フランコ将軍、トルーマン大統領、宋美齢(蒋介石夫人)、江青(毛沢東夫人)、チャーチル、スターリン、金日成、金正日、毛沢東、ドゴール、リンドン・ジョンソンという面々に主人公は出くわす!
当然、放浪の場所もスペイン、ロス・アラモス、中国、ヒマラヤ、イラン、モスクワ、ウラジオストック、朝鮮半島、バリ島、パリ、と荒唐無稽の粉飾満載である。
歴史上の著名人をからかい、揶揄し、笑い飛ばす方法がまだ小説作法に残っていたことを実感したものだ。

その後の小説は、第一作のインパクトにはなかなか及ぶことができなかったものの、スウェーデン社会の矛盾を追及する姿勢は、どうやらこの国の作家の使命のようなものなのだろう、世界を批判しながらスウェーデンに愛の鞭を振るう心根は日本人にはまねができない。
そのベースは、ユーモアであり弱者への優しさであり権力者批判である。

しかしながら、100歳老人の続編拝読は控えさせていただいていた。
大ヒット作の二番煎じであることは紛れもなく、物語が101歳の主人公になるということは歴史と同時進行形になるということでもある。
今まさにそこに起こっている不条理にどこまでアタックできるのか…などと勝手な心配をしてしまい5年間、手にする機会を腐らせてしまった。

今の今まで続編をすっかりパスしてしまったことも忘れていたのだが、AMAZONのアルゴリズムに救われた。
「続編を読んでみませんか?・・・例えば云々・・・」という連絡が入った、その中に本作があったというわけである。

今作の晴れの敵役は、トランプとプーチンと金正恩、なかなか豪華な役者を揃えてきた。
101歳が隠居していたインドネシアから、平壌、ニューヨーク、故郷スウェーデン、そしてタンザニア、コンゴと今回も大陸を駆け巡る。
テーマは、別に大それたテーマではないが、北朝鮮の核開発用ウラン密輸であり、101歳の主人公がその陰謀を阻むという筋書きになっている。
トランプ、金正恩とは対面のやり取りがある、メルケルとは電話会談だが、メルケルが本作の白馬の騎士、ヨーロッパの宝とされている。

裏を返せば、EUにおける民主主義の衰退、極右勢力の躍進が著者には腹立たしいのだろう。
ヨーロッパの混乱を策動しているのが、プーチンということになっているが、実際今の時点(2024)でもこの現状は変わることはないようだ。

本作ではトランプの馬鹿さ加減を語り尽くしているが、今年(2024)の秋またトランプが政権に返り咲くことがあれば、ぜひともヨナソンにご尽力願いたい。
ユーモアと自己認識の歴史的欠如のトランプに世界を任せるわけにはいかない。
とはいっても、いまや106歳老人が世界を救えるかどうか、はなはだ疑問ではあるけれど。
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