保守の遺言 JAP.COM衰滅の状況  (2018/3/16)

文字数 1,498文字

2018年2月27日 初版第1刷
西部邁
平凡社新書



1月21日に自裁した西部邁氏の最後の著作、
当然のことながら、自裁することを決意したうえでの執筆になっている。
本書のあとがきには(2018年1月15日付)
【思想というものの本髄を探るための仮設作りに精出し、保守思想の系譜の底に流れているものを把握しようとし、マスソサイアティの醜悪に 抗おうとし、そして日々生起する新たな状況に切り込もうというおおよそ四元からなる私のささやかな言論活動も、これで終止を 迎えることとなったわけである。
 ・・・中略・・・・・
自分のことについても比較的多くのことを人間解釈の題材としてかきしゃべってきたものの、ほぼ間違いなくそのすべてが 時代の重さに踏みにじられ時代の風に吹かれ跳んでいくのだと確信できる。その意味では人は一人で生まれ一人で死ぬこと以外には何も残すことがないといった虚無の感が否応もなく押し寄せる。しかし多くの人がやるべきこととやりたいこととやれることをやりつくしたあとで、 僕のと似たような気分で生死したのだろうと考えると、まあ、人生の相場はこんなところかと思い定めるしかない。】
とある。

本社は次のような章立てで、著者のこれまでの言論活動を振り返りまとめようとする:
(第一章) 今此処におけるわが国の紊乱状況
(第二章) 瀕死の世相における人間群像
(第三章) 社会を衰滅に向かわせるマスの妄動
(第四章) 抜け道のない近代の危機
戦後長きにわたるアメリカ支配のこと、憲法改正のこと、核装備のこと、そして日本人の精神的支えになるはずの歴史・文化の喪失。
繰り返しを厭わず切々と訴える思いが伝わってくる。

【・・日本人よ、決して馬鹿者の一億三千万の集まりではないはずのニッポンジンよ、少しは精神お耳目を開いて(旧敵国の)アメリカと中国とロシアがどんな状態になっているかを眼を開いて直視し脳漿を絞って注意せよ。アメリカは孤立主義に入るぞと公言し、ロシアは経済封鎖を
突破して日本との交易を求め、中国はみずからの覇権拡張主義に自己不安を抱きつつある。 
そこで日本はみずからの軍事・外交の微妙な (つまり臨機応変な)舵取りを迫られているのだ・・・】

【軍事力は国民の生命・財産を守るためのものであり、憲法は国民の国柄を守るためのものであり、領土は国民の生きる場所を守るためのものだ。そうと分かれば国家の保護を大事にすることに対して、つまり保護主義に対して批判を専らにしてきた平成の時代意識は 狂っていたということになる。・・・】

【いま始まっているのはグローバリズムのもたらした国家への危機という事態である。この危機を克服すべく政府が舵取りし、それを国民が受け入れかつ具現していかなければならない。そうしないとどんな国家も、自国本土への施政権をすら長期にわたって曖昧にし、結局全領土すら実質的に失って他国の準州あるいは保護領となる。・・・】

【財政の短期的な収支にのみこだわる財務省は、この長期的な資産のことを無視してプライマリー・バランスを保つべく消費税の増税を強行しようなどということをする。無論超長期的に言えば国家資産が国家強靭化のために使われていけば、いずれはその資産が費消され、プライマリー・バランスのことを気にしなければならないときがやってくるではあろう。しかしそうなるまでにはまだ時間的余裕がたっぷりあることを考えれば、この世界危機の中で可能なかぎり安泰なポジションを日本国家が占めるためにいわゆるレジリエンス企画を推し進めることに問題があるはずはない。・・・】

保守とは日本を保ち守ること、今こんな単純なことが難しい。
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