寒い国から帰ってきたスパイ (2013/7/21)

文字数 716文字

1978年版
著者:ジョン・ル・カレ
ハヤカワ文庫NV 



1963年発表で、ハヤカワ文庫版が1978年であることから推察するに、
僕が読んだであろう時期には「ベルリンの壁」はまだしっかりと存在し
「超えられないもの」の象徴として戦争の悲劇を語り伝えていたことだろう。

本書はスパイ小説の金字塔としての伝説イメージが強烈だった。
ところが今回再読してみると、記憶にあった圧迫感、重厚感は感じられず、
ライトなコンフォタブルな文章にともすれば心地よく読み進めることができた。
思い返せば、
「ベルリンの壁」は1989年に崩壊し、東西ドイツはその翌年統合を果たしている。
冷戦の中、東ドイツに位置するベルリンは連合国軍の分割統治の結果二つの陣営(英米仏とソ連)に分けられたものの、
東ドイツ国民が大挙して西ベルリン経由で西ドイツに亡命すること夥しく、東ドイツはその防御対策として「壁」を構築した。
人類史上かって経験したことのない冷戦のさなかに、英米仏独ソが混在するベルリンは当然ながらスパイの世界でもあった。
西側諜報機関(英国MI6)対東ドイツ工作を描いた本作も
そのような時代背景があったればこそ、
リアルな恐怖と慄きをもって読まれたはずである。
シネマになった本作でも、東西ベルリンを結ぶ連絡口の一つ「チェックポイント・チャーリー」でサーチライトに照らし出された脱出しようとするスパイが銃撃されるシーンを今でも心に深く記している。
それは僕にとって、その時そこにある恐怖であった。

はたして冷戦が終了しソ連も崩壊し、統一ドイツはNATOに加盟している現在、この恐怖を肌で感じることはできない。
スパイ小説の金字塔というよりは、もう本書は歴史書になってしまったのだろうか。
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