終戦日記一九四五  (2022/10/3)

文字数 1,130文字

2022年6月15日 第1刷発行 
著者:エーリッヒ・ケストナー  訳:酒寄進一
岩波文庫


オリジナルタイトルは 「四五年を銘記せよ」、つまりドイツ第三帝国に起きた悲劇は歴史上の一コマなどではなく、これからも起こりうることだから、その気構えを持て・・・と言っている。
岩波文庫は、本書翻訳を2021年12月から始め6月の刊行に間に合わせたと記している。
ロシアのウクライナ侵略を受けての出版だったことは言うまでもない。
そうすると、「二〇二二年を銘記せよ」という新たなメッセージはロシア国民に放たれたるものか?
いや戦争の展開次第ではどの国にも起こりうる警告になる、恐ろしいことではあるが。
「飛ぶ教室(1933)」など 児童文学作家の著者がナチス第三帝国末期と終戦に見聞きしたありのままを皮肉とユーモアで書き残した日記そのままの形が本書である。
著者は不適切作家という烙印の元で作家活動ができないにもかかわらず、ほかの作家のようにドイツを出ることなく最後まで国内にとどまり小説の題材を収集していた。
結局日記をそのままの姿で発表することになったのは、小説という一点にフォーカスすることで1945年におこった広範な不条理をすくいきれなくなることを恐れたからと言う、であるから本書には事実のみがズラリと書き記されている。

ベルリンからマイヤーホーフェン村に租界する大義が映画撮影のシナリオライターとしてというドイツ官僚主義はじめ、いたるところで皮肉な観察と裡なる葛藤が正直に記録されている。
ナチス独裁政権に対抗できなかった作家の言い訳は、今のロシア国民のみならず日本人の僕にすら重くのしかかってくる。
日記の中から、心に響いた部分を抜粋してみると・・・
■「独裁体制下における人間の可変性」分析がないと、人は迷宮に立ち尽くすのみと断言する。
第一段階:破産や投獄といった暴力への恐怖、それは飢え死への心配につながる、裏切ることへの不安。
第二段階:何か聞かれて違うことを言ってしまう不安。
第三段階:圧力による変化で不安は消える、周りが満足するので自分も満足する。
■そのモラルがたとえどんなに不道徳なものでも、支配される側は支配する側のモラルと平和条約を結ぶ、内なる声はその時々の規範に従う。
■敬虔な人食い人種を敬虔なキリスト教徒にすることができるように、その逆も可能だ。
■新しい時代が始まると、これまで正義とされていた不正が再び不正となるが心配はいらない、良心は回れ右できるから。
■私たちは政治的に従属する人間、国家による虐待に甘んずるマゾヒストなのだ。ドイツ人には美徳や才能が欠けている、ドイツ人は国民になる素質がない。

ケストナーの悲嘆を繰り返すわけにはいかない、ロシア人もそして日本人も。
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