富めるもの貧しきもの (2013/8/29)

文字数 648文字

1969年発表、1990年ハヤカワ文庫
著者:アーウィン・ショー  訳:大橋吉之輔



アーウィン・ショーといえば「夏服の女たち」に代表される
洗練された短編の名手としてのイメージが強い。
常盤新平氏の名訳も味わい深かったことが思い出される。

ところが本作は文庫(上・中・下)の3冊に及ぶ長編である。
原題「Rich Man, Poor Man」も一見生活環境の異なる男女愛ストーリーのようにも
想像できる。
「還暦文庫」は、しつこいようだが、記憶忘却こそが強い読書モチベーションになっている。
今回も幸か不幸か人生で同じ本から何回目かの感動を受けることとなった。

本作はドイツ移民の子供3人(姉、兄、弟)の半生を描いて
アメリカの「陽と影」を象徴的に演出している、
決してハッピーな能天気紐育物語ではなかった。
貧乏なドイツ移民一家、粗暴な父、人生をあきらめた母、冷静に人生を昇り詰める兄、
男性遍歴を止められない姉、暴力を抑えることができない弟・・・・。
かれらは「富めるもの」なのか? 
または「貧しきもの」なのか? 作者は問いかけてくる。

敢えて結末を開示するが、三人は三様に不幸になる。
一般的には確かに不幸になる、
しかし、いま一歩掘り下げてみると三人は三様に幸せだったとも思えてくる。
それは
「富を幸せと考えるか?」 
「自由を幸せと感じるか?」 
「愛することを幸せと思うか?」

そして「死をどう受け止めるか?」によって違ってくることに気づく。
本当の意味での「富めるもの」になるにはどうすればいいか?
今からでも遅くはないと思った。
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