自閉症は津軽弁を話さない (2020/12/28)

文字数 740文字

令和2年9月25日初版発行 10月25日 再販発行
著者 松本敏治
角川ソフィア文庫




著者が弘前大学付属特別支援学校長のとき、ある夕餉の場で奥様と口論をした。
彼女の発した一言、
「あのさぁ、自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ」がこの物語の始まり。
発声やアクセント・イントネーションの違いで説明できると軽くいなした著者に食い下がる奥様、「これで自閉症かどうかチェックできるし。ホントに検診とかでも使えるんだはんで」
そこから始まった著者の研究、本書はノンフィクションを読む楽しみに満ち溢れていた。

まずもって、自閉スペクトラム症(ASD)に関して僕は全く知識がなかったうえに特別な関心もなかった。しかしながら、ASDは宇宙や微生物のお話に比較すれば身近に感じられた、あくまでも自分勝手な思い込みではあるが。

本書では、著者が臨床現場で調査し仮説を立て、専門家に問い合わせ、論文を作成し発表いていく経緯が細かく記されている、僕の立場でも理解できる平易な表現なので理解する喜びも沸き起こる。それはある種ミステリーを解明していくようなもの、人間の知恵が一つの不思議を謎解いていく過程だった。
全国レベルでの調査を踏まえ、課題であった津軽弁は「方言」に昇華し、一方では方言の社会的機能説による解釈が導き出される。
これはASDの持つ中核症状である社会性障害と関連して解釈できる道筋が見えた。
素人の解釈ではあるが、本書が手を付けた問題はASDと方言の問題から、ASDがどのように言葉を覚えていくかというより広範な問題に入り込むことになった。
キーワード(意図理解・調整・参照)という側面からASDのコミュニケーションの特異性を検討する大きなムーブメントになるに違いない。

知らなかったことを知る読書は愉しい。

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