10.偽預言者バラム

文字数 1,007文字

イスラエルが約束の地に入る前の最終宿営地シティム。

そこで民はモアブの女たちとみだらな行為をし始めた。

彼女たちはバアルに生贄を捧げ、その生贄の食事をイスラエルに振舞った。

バアル……。

なんか、身近にそんなんおった気ぃするなあ。

うっ……。

記憶に混乱が???

まあたぶん知り合いだよ。

思い出したくないんだろうけど。

バアルはウガリット神話では最高神エルの息子とされる。

死神モトのライバルだね。

バアルは聖書においては異教の神。

憎むべき敵として描かれている。

こいつがバアルか?

なんかとげとげしいもん持っとるな。

その手に持っているのは棍棒と槍で、稲妻の象徴さ。

嵐の神であると同時に農業の神でもある。

日本で言うところのヤマタノオロチだね。

ヤマタノオロチは聞いたことあるで。

川の氾濫がどうたらいうやつやろ?

そういう人もいるけどね。

ヤマタノオロチは『先代旧事本紀』では雷の化身として描かれている。

そして雷は稲と深い関わりを持つんだ。

なんせ「稲」の「妻」と言うくらいだしね。
言われてみればそうやな。

確かに嵐は雨も運んでくるから、水不足の時には恵みにもなるか。

せやけど多すぎる風雨は害にもなる。

こんな厄介なもん、崇めるしかないわな。

モーセはイスラエルの裁き手たちに言った。

「バアルを慕ったものたちを殺せ」

なんとなくモーセ言うたら、弱い者の味方、みたいなイメージあるけど。

聖書のモーセはなかなかの意外性を見せてくれるもんやな。

生き残るには力がいるし、力とは暴力だからね。
そしてモーセは事件の背後にいる者の存在に気付いた。

その男はイスラエルに3度の祝福をもたらしたバラムだった。

捕虜の処遇についてモーセは言った。

「この女たちはバラムに従いイスラエルの子らをそそのかした」

「子供たちのうち男の子はすべて殺せ」

「非処女は殺し、処女だけはお前たちのために生かしておけ」

男はいつの時代も処女が好きなんやな。
どうなんだろうね。

托卵を避けるため、かな?

しかしバラムはイスラエルのために祝福してくれたんに。

なんで今さら裏切っとるんや?

欲深さゆえ、とされているね。

聖書では神に従っている風に書かれているけれど。

実際には金銀のためにバラクを訪ねたんじゃないかって。

そして彼こそはソロモン72柱序列51位の悪魔、魔王バラムその人さ。

……と言う風に語られたりもするね。

ロバが熊になっとる。
結局、バラムはイスラエルの民に剣で殺されてしまった。
惜しい男をなくしたもんやで。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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