5.ヨブの嘆き

エピソード文字数 945文字

シャッダイ(全能者)の矢が突き刺さり、わたしの魂は毒を飲む。

神の恐るべき軍勢が、わたしを攻撃している。

友人にもっとしっかりしろと言われて、むしろヨブはより嘆く。

「神の恐るべき軍勢」というのは内面的な苦しみのことだね。

子を失い、財産を失い、病に侵され。

さらにやって来た友人には慰めどころか説教を食らう。

嘆きは深まるばかりやで。

塩なしに味の無いものを食べられるだろうか。

食欲はそれに触れることさえ拒む。

わたしの肉体と同じく腐ったものだ。

薄味のものは食欲がわかない、というのはつまり友人エリファズの忠告のことだね。

彼の言葉は味気なく、ヨブには全く響いてこなかったということさ。

草どもの苦しみなど知れていてよ……。

とは言え、ヨブの言い分も分からなくもないわね。

エリファズの言葉には「まあ、ご立派」とでも返したくなりますわ。

大上段から弱者に説教をかますのは、さぞ気持ちよいことでしょう。
絶望したものには友の慈しみがふさわしい。

しかしわたしの兄弟たちはわたしを裏切った。

まるで水の流れ去った川床のように。

友人たちは乾いた川みたいに冷淡や。

エリファズの説教はヨブにはそうとうなショックやってんな。

イギリスの詩人にして画家、銅版画職人であるウィリアム・ブレイクの作だ。

身も心もぼろぼろのヨブがさらに責め立てられている様子が描かれている。

嫁さん、首ふっといな。
わたしがどのような過ちを犯したのか、それを悟らせてもらいたい。

正しい言葉は何と快いものだろう。

しかし、あなたたちは何を非難しているのか。

因果応報という論理が友人たちの内にはありましたわね。

しかしヨブの惨状はその論理とどうも相容れない。

そこで彼らの中で認知的不協和を生じ、ヨブを非難する方向に傾いたのかしら。

愉快ね。

草どもの心の醜さ、浅ましさを眺めるのは。

認知的不協和は、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが提唱したものだね。

「自身の中で矛盾する認知を同時に抱え」「そのときに覚える不快感」だとか。

わたしは命をいといます。

いつまでも生きながらえたくありません。

間もなくわたしは塵の中に横たわるでしょう。

ヨブの心は折れていた。

けれど友人たちはやはり、そんなヨブに納得がいかなかった。

友人たちの一人ビルダドはさらにヨブへの「反論」を行おうとする。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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