4.抱神者シメオンと女預言者アンナ

エピソード文字数 1,267文字

レンブラント・ファン・レイン「シメオンの賛歌」

中央で赤ん坊を抱いている男がシメオンだ。

神を抱きかかえた逸話から「抱神者」と呼ばれている。

そして絵の左側で、手を広げているのが女預言者アンナ。

彼女は非常に高齢で84歳だと『ルカによる福音書』で言及されている。

マリアの母アンナとは別の人だから混同しないようにね。

イエスが神で、それを抱きかかえたことで「抱神者」などと。

随分、おおげさな物言いではございませんこと?

イエスを抱きかかえた者など、他にいくらでもいましょうに。

ちなみに英語だと、シメオン・ザ・ゴッドレシーバーだ。

何かの必殺技かと思うような響きだね。

かっこええは正義やで。
ふむ。

元はギリシア語ですのね。

シメオン・オ・テオドコス(Συμεών ο Θεοδόχος)

テオス(θεός)が「神」でドコス(-δόχος)が「受け取る者」の意味。

これを繋げてテオドコス、すなわち「抱神者」となりましてよ。

エルサレムにシメオンという人がいた。

この人は正しく敬虔な人で、メシアを見るまでは死なないとのお告げを受けていた。

両親に神殿へと連れられたイエスを抱き上げ、神をほめたたえて言った、

「主よ、今こそ、あなたはお言葉のとおり、

あなたの僕(しもべ)を、安らかに去らせてくださいます。

わたしはこの目で、あなたの救いを見たからです」

シメオンは一目でイエスがメシアであると見抜いた。

そして賛歌をささげて主を称えた。

こんだけ光っとれば、誰かて気づくやろけどな。
照明入らずで油の節約にもなりますわね。
まったく君たちは、不敬極まりないね。
アシェル族のファヌエルの娘で、アンナという女預言者がいた。

若いころに嫁いだが七年でやもめとなり、すでに84歳になっていた。

彼女も近づいてきて、神をほめたたえた。

レンブラントの絵やと背中向けとるな。

顔もうすぼんやりとしか見られへんし。

ほんまにこの人がアンナやろか。

アンナの右手をよく見てごらん。
しわくちゃやな。

よくもまあ、こうも細かく描き込めるわ。

さすがやで……。

この皺はまぎれもなく老婆のものですわね。
こんな風にしてイエスは様々な人々の祝福を得たという。

少々細かい話だけれど、シメオンをシメオン・ベン・ヒレルと同一視する説がある。

と言っても、そもそもシメオン・ベン・ヒレル自身が目立たない人物だ。

そんな人物と同じだと言われたところで、興味ない人には全く響かない話だろう。

シメオン・ベン・ヒレルは大ヒレルの息子だと言われている。

大ヒレルはファリサイ派律法学者の指導者的人物だ。

となれば抱神者シメオンはファリサイ派において重要な立場にある。

そのような人物の祝福をイエスはすでに受けていたということかしら。

まあね。

ただし、シメオン・ベン・ヒレルは祭司ではない。

聖書での役回りとの整合性が取れないように見える。

このへんは、そういう話がある、くらいに抑えておこうか。

(イエスの)両親は主の律法どおりにすべてをすませて、

自分たちの町、ガリラヤのナザレに帰った。

幼子は成長し、たくましくなり、知恵に満たされた。

神の恵みがその上にあった。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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