1.あなたに平和がありますように

エピソード文字数 1,210文字

『ヨハネの第三の手紙』もかなり短い文章だ。

そして新約聖書であるにも関わらず、「イエス」「キリスト」の言葉が出てこない。

唯一「み名」という呼び方で間接的に示す程度さ。

書かれている内容も神学的にそれほど価値があるとは思えない。

日本の牧師に「信仰思想的な価値は、少しく落ちると見るべき」なんて言われてる。

(『聖書入門』小塩力)

それでも正典に含めるからには、何かしら読むべきところがあるのでしょう?

それはいったい何なのかしら。

手紙の内容からすると、互いに助け合うことを重視している。

その中で、ディオトレフェスという人物の横暴な態度を指摘しているんだ。

わたしは教会に少しばかり手紙を書き送りました。

彼らの頭になりたがっているディオトレフェスは、わたしたちを受け入れません。

彼は悪意のある言葉でわたしたちを謗っています。

どういうこっちゃ。

ディオトレフェスってのは反キリストなんか?

異端を示す言葉は文中に無い。

教義について対立したのではなく、あくまで組織内での主導権争いだろう。

手紙の言い分に従えば、ディオトレフェスは傲慢で権力欲のある人物だった。

ディオトレフェス(Diotrephes)は「ゼウスに育てられた者」の意味ですわね。

その名前からして、それなりの家に生まれた者のようですが。

しかし、キリスト教徒になりながら、名をそのままとしたのかしら?

後世では緩やかに許容されるとしても、初期において偶像の名を冠するとは。

少々不自然な気もいたします。

レイモンド・E・ブラウンも「一般的な名前ではない」とコメントしている。

珍しい名前であることは確かだ。

とは言え、そこに人の意図を見出すのは難しい、と言うか憶測にしかならない。

例えば、ギリシアの神の名を悪役として登場させた、とかね。

あら残念。

面白い、お話だと思いましたのに。

自分で言っておいて何だけど、すぐ後にデメトリオが出てくるからね。

彼はディオトレフェスと違って立派なキリスト教徒として手紙に書かれている。

その名前の由来はギリシア神話の女神デメテルだ。

ディオトレフェスがゼウスの名をもって悪役だという論理を通すのは難しいだろう。

結局、正典としての価値はどこにあるんやろ。

このディオトレフェスを反面教師にせえよってことなんかな。

神学的と言うよりは歴史的な価値があるという人もいる。

また、締めの言葉で「あなたに平和がありますように」というのがある。

これはユダヤ人の挨拶習慣をキリスト教にも持ち込んだものなんだ。

ヘブライ語では「シャローム・アレイカム(Shalom aleichem)」と言う。

ちなみにイスラムでは「アッサラーム・アレイコム(As-salāmu ʿalaykum)」

発音がとても似ているところに、文化的な繋がりを感じるね。

『ヨハネの第三の手紙』15節

あなたに平和がありますように。

友人たちがあなたによろしくと言っております。

そちらの友人たち一人ひとりに、よろしく伝えてください。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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