3.ネブカドネツァルの狂気

エピソード文字数 1,250文字

ネブカドネツァルはまた夢に悩まされる。

他の魔術師に聴いても分からないので、結局ダニエルを呼び寄せた。

そして「ベルテシャツァル」の名をもって助言を求めたんだ。

その名は「わたしの神の名に因んで」いると言ってね。

ベルテシャツァルの由来はバラツゥ・ウスル。

すなわち「彼の命を守りたまえ」の意味でしたわね。

これは例えばマルドゥク・バラツゥ・ウスルなどのように使う言葉。

マルドゥクに限らず、様々な神に願うものですわ。

ですからベルテシャツァルそれ自体は神の名ではありません。

おそらく、王はその響きからベル神に因むものと勘違いしたのでしょう。

ベルは最高神のことで、初期はエンリルであり、後にマルドゥクとも。

何にせよ、ダニエルに対する王様の信頼が高まっとるわけやな。

今回はどんな夢やったんやろ。

大地の中央に一本の木が立っていた。

非常に高い木で、天に届くほどの高さになって地の果てからも見えるほど。

聖なる者が天から降り「この木を切り倒す」と告げた。

その心は変えられ、獣の心が与えられる、と。

その者の上に七つの時を過ごさせよと命令した。

夢の内容を聞いたダニエルは驚き怯えた。

彼の解釈では、一本の木とはネブカドネツァルその人だ。

人々から追放され、獣となって苦しみ、神によってまた王となる。

ちなみに王を木に喩えるのは『エゼキエル書』でも見られた。

『エゼキエル書』第31章でエジプトのファラオが「レバノンの杉」と呼ばれている。

ダニエルは王に解釈を述べた。

王は野の獣とともに住み、牛のように草を食べるだろうと。

いやいや。

さすがにそれは無いやろ。

なんで、そんなことになんねん。

しかし聖書にははっきりと書かれている。
ネブカドネツァルがバビロンを自画自賛すると、天から声が下った。

「お前は野の獣とともに住み、牛のように草をはむ」と。

それはたちまち実現し、王は姿も生き方も獣のようになった。

あらあら、王ともあろう者が見苦しい様ですこと。
なんで、こないなことに。

驕り高ぶったことに対する神様の怒りなんか?

神の怒りによってネブカドネツァルの精神が狂気に陥った……。

という解釈が一般的かもしれない。

ただシンガポール出身の聖書学者、蕭俊良(Xiāo jùnliáng)は少し異なる解釈だ。

獣となる場面を彼は「従順な姿勢」を見せる表現だと考えた。

簡単に言えば、犬が主人に従う態度みたいなもんだね。

(Seow, C.L. (2003). Daniel参照)

『詩編』第73章22-24節

わたしは愚かで悟らず、あなたの前で、弁えのない獣のようになった。

しかし、わたしは常にあたたとともにおり、あなたはわたしの右手を引いておられる。

あなたは諭しをもってわたしを導き、

遂には栄光をまとわせて、みもとに引き取られる。

つまり、ネブカドネツァルが本当に狂ったわけではない。

神の意に従わぬ状態はすでに獣のようであり、

また獣のごとくに神に従うべきであると。

かくしてネブカドネツァルは獣から人へと変わった。

そしてその時には「天の王を崇め、賛美」するようになっていたのさ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色