3.シャブオット

エピソード文字数 1,305文字

五旬祭の日が来て、みなが一つになって集まっていた。

その時突然、天から激しい風が吹いてくるような音が起こり、

彼らが座っていた家全体に響き渡り、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、

一人ひとりの上に留まった。

すると、みなは聖霊に満たされ、霊が語らせるままに、

他国のさまざまな言葉で語り始めた。

前に「聖霊降臨祭」で見たところやな。

イエス様が言うた通り、ちゃんとみんなに聖霊が降りてきたんや。

ここで言う五旬祭が「シャブオット」ですのね。

神の律法を記念したとかいう。

その通り。

シナイ山で神がイスラエルの民に律法、トーラーを与えたことを祝うものだ。

また、イスラエルにおける収穫祭という意味合いもある。

『出エジプト記』第34章22節

お前は小麦の刈り入れ時に、初穂のために七週の祭りを行い、

また年の変わり目に取り入れの祭りを行え。

てか「炎のような舌が分かれ分かれに現れ」ってなんやねん。

ちょっと絵的にどうなん?

イメージはまるで悪魔のようかしら。
動物の舌をイメージすると、ちょっと怖いかもね。

でもたぶん、絵的には「炎」の方がしっくりくるよ。

「舌」には「言語」の意味が含まれているのだと思う。

「舌」は古代ギリシア語で「グロッサ(glôssa)」ですわね。

これには確かに「言語」の意味がございます。

パイプタバコのマウスピース、という意味もありますが。

神様がみんなにタバコ吸わせたろ思うてマウスピース配った説が……。
炎のようなマウスピースなんて、人が咥えたら大やけどだね。
あと、彼らがいたという家にも注目だ。

この場所は「最後の晩餐」で使われたのと同じ場所だと言われている。

そこは一般に「セナクル」「上の部屋」などと呼ばれているんだ。

『ルカによる福音書』第22章10-12節

イエスは仰せになった、

「都に入ったら、水瓶を運んでいる男に出会う。

その男が入る家までついて行って、その家の主人に言いなさい、

『<弟子たちと一緒に、過越の食事をする部屋はどこか>と、先生が言っております』。

すると、その主人は席の整った二階の広間へ案内してくれる。そこに用意しなさい」。

『使徒言行録』第1章13節

彼らは町に入ると、泊まっていた高間に上がった。

それは、ペトロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、フィリポ、トマス、バルトロマイ、

マタイ、アルファイの子ヤコブ、熱心党のシモン、ヤコブの子ユダであった。

『使徒言行録』の方は、マティアが使徒になる前のところだ。

この「高間」が「上の部屋」ではないかという話だね。

そこで皆してシャブオットを祝ってたんやな。

そしたらいきなり炎みたいなんが降りかかってきたんやろ?

そんなん、パニックならへんのやろか。

酒が入っていたのでしょう。

むしろ気分が高揚してあれやこれやと話し始めているではありませんか。

「他国のさまざまな言葉で語り始めた」など。

まるで酒の場だと英語が躊躇なく話せる海外駐在員のよう。

エルサレムには様々な国から来たユダヤ人たちが住んでいた。

彼らはその場に現れてこう語る。

「自分たちの国の言葉で、あの人たちが神の偉大な業を語るのを聞こうとは」、と。

しかし、「あの連中は新しいぶどう酒に酔っているのだ」と言って、あざ笑う者もいた。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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