12.アルキモスの讒言
文字数 1,291文字
アンティオコス5世エウパトルはシリアの首都アンティオキアに帰った。
その際、彼の従兄弟にあたるデメトリオス1世ソテルがトリポリスに上陸した。
デメトリオス1世は父王セレウコス4世フィロパトルの息子だ。
セレウコス4世の父アンティオコス3世大王がローマに敗れて、その人質となっていた。
目まぐるしくて、よう付いて行かんわ。
かいつまんで頼む。
要するに外国にいた王族が戻ってきたということさ。
我こそは正統なるシリアの王、とかいう感じかな。
ローマを脱出したデメトリオス1世ソテルはトリポリスを支配して勢力を整えた。
そして「先祖の王宮」に入ろうとしたと言う。
先祖の王宮に入ろうとした時、兵士たちがアンティオコスとリシアスを捕らえた。
デメトリオスは「彼らの顔をわたしに見せるまでもない」と言った。
そこで兵士たちは二人を殺し、デメトリオスが王座についた。
あっさりしたものですわね。
アンティオコス5世も宰相リシアスも、さほど人望は得られなかったのでしょう。
アンティオコス5世エウパトルが死んだのは11歳の頃だ。
セレウコス朝シリアを実質牛耳っていたのは宰相リシアスだった。
当時デメトリオス1世ソテルは20代半ば。
年齢的にも彼こそ王に相応しいと思われたのかもしれないね。
王座に着くには子供と言えど容赦できんな。
しゃあない。
時に、イスラエルの無法の者と不敬の輩(やから)が王のもとに来た。
彼らの先頭に立ったのは大祭司アルキモス。
彼はユダとその兄弟たちを処罰するように願ったのだ。
なんやこいつ。
大祭司のくせして、仲間を売ろう言うんか?
いつの時代もそうだけれど、ユダヤ人だって一枚岩ではない。
彼は大祭司でありながら、ギリシア思想に傾いていた。
それゆえにユダ・マカバイは彼を追放したんだ。
あら、お可哀そうに。
「異教」を廃して助けてあげなくては。
王はバキデスにイスラエルに向けて進軍するよう命じた。
彼は「川の向こう側」(ユーフラテス川西方地域)を治める人物である。
大軍を率いたアルキモスとバキデスのもとにハシダイ人律法学者が訪れた。
アロンの子孫であるアルキモスが自分たちに害を加えるはずがないと思ったのだ。
アロンて懐かしい名前やな。
『出エジプト記』に出てくるモーセのお兄ちゃんやん。
アルキモスは血筋の良さから信頼を得た。
そして集まってきた律法学者たちに害を加えるつもりはないと宣言した。
しかしこれは見え透いた嘘だったのさ。
彼は集まってきた者のうち60人を捕らえてすぐに処刑してしまう。
弱者が過ぎた力を持つと残虐になる。
いささか調子に乗り始めているようですわね。
ここからがちょっと不思議な展開なんだけどね。
バキデスは軍隊を残して王のもとに帰ってしまう。
アルキモスは「必死」で大祭司の職を保持しようとしたと言う。
軍人でもないアルキモスに軍隊任せてほったらかし。
仲たがいでもしたんちゃうか?
そしてユダ・マカバイの強さを察したアルキモスも逃げ帰る。
王にユダのことを悪し様に訴えたんだそうだ。
分かりやすい小者ですわね。
学者連中は平気で殺し、戦士相手は戦わずして逃げる。
情けないったら……。
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