1.第二神殿

エピソード文字数 1,448文字

バビロン捕囚が始まったのは紀元前597年から。

そしてペルシア王キュロス2世の解放宣言は紀元前537年。

ざっと60年ほどの捕囚時代があったことになるね。

その程度であれば、幼い頃に捕囚となり、年老いてから解放された……

というケースもそれなりにあったのかしらね。

絶妙なタイミングやな。

これ以上時間が経っとったら、故郷への思いも薄れてしもたかもしれん。

感極まるものがあったろうね。

戻った彼らは失われたエルサレム神殿の建築に着手した。

いわゆる第二神殿と呼ばれるものだ。

神殿の基礎が据えられた後のセレモニーの様子は、なかなか胸にくるものがある。

ソロモン時代の壮麗な神殿を知っている祭司、レビ人、

指導者など多くの年長者は、声を上げて泣きました。

歓喜とも悲嘆ともつかない叫び声が遠くまでとどろき渡りました。

(Japanese Living Bible)

うっ……。

おじいちゃん、おばあちゃん。

数十年ごしの夢や。

ここで泣かんかったら、いつ泣けばええ。

そんくらいのことやでなあ。

この時、ユダヤ人の指導者はゼルバベル。

ユダ王ヨヤキンの孫にあたる人物だ。

オランダ黄金時代の画家ヤコブ・ヴァン・ローの作品だ。

ゼルバベルがペルシア王キュロスに「エルサレムの計画」を見せている場面らしい。

おそらく神殿建設に関することだろうね。

ペルシア王のお墨付きも得た神殿建設だ。

けれど、神殿建設を快く思わない人たちもいた。

神殿再建事業についてペルシア王に告訴状が出された。

バビロン捕囚の頃、エルサレムの地に暮らしていた人々のものである。

彼らは捕囚を免れたユダヤ人、およびその他の民族であった。

その他の民族とは即ち、ディン人、アファルサタカ人、タルペル人、アファルス人、ウルク人、バビロニア人、スサ人、デハ人、エラム人、等々である。
60年ですもの。

当然、そこには新しい生活、新しい習慣がありましてよ。

バビロニアから帰ってきたユダヤ人など、

彼らにしてみれば異邦人も同然ですわ。

それは分からんでもないなあ。

自分が何十年も住んでるところに現れて、なんかでかい神殿造り始めるんやろ?

今の時代なら間違いなく反対デモ起こされる案件やで。

告訴状の中で彼らは、ユダヤ人は危険な反逆者だと言う。

ユダ王国の時代に何度も戦っているんだから、その言葉には説得力があった。

ちなみに当時のペルシア王はすでにキュロス2世ではなかった。

その名は聖書に記されているけれど、実際にはよく分からない。

ん?

なんでや?

聖書にはクセルクセス王、アルタクセルクセス王の名が書かれている。

けれど彼らは神殿再建の時代の王ではないんだ。

フランシスコ会聖書研究所によれば、著者が城壁修復と混同したと思われる。

ともあれ、ペルシア側は告訴を受け取り、神殿建設を中断させた。
なかなかすんなり進まんもんやなあ。
事が容易に運ぶのもつまらないものですわ。

焦らしてさしあげるのも乙女の嗜みでしてよ。

ユダヤ人たちも当然黙って引き下がらない。

しばらくしたら、勝手に工事を再開したんだ。

総督のタテナイはそのことをペルシア王ダレイオス1世に報告した。

報告を受けたダレイオス1世は神殿建設について調査させた。

そしたらキュロス2世が神殿建設を認める勅令が宝物殿から出てきたんだ。

ユダヤ人にとって宝物なんは分かるけどな。

大事にし過ぎて忘れ去られとったんか。

紆余曲折あったけれど、最終的にはダレイオス1世の命令で神殿建設が認められた。

神殿奉献の祝いを行い、めでたしめでたし、というわけさ。

今度は壊されないように大事にすることね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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