10.地の塩、世の光

エピソード文字数 1,260文字

イエスは山に登り、弟子たちに向けて説教を始める。
説教かあ……。

うち、あんま好きちゃうねんけどなあ。

「説教」はそもそも、宗教の教義を口頭で解き明かすことだ。

一般の人たちが言う「説教」とはニュアンスが異なる。

山上の説教はイエスが弟子たちに教えを語る場面だよ。

なんや。

てっきりイエス様に怒られるんか思たわ。

あなた方は地の塩である。

あなた方は世の光である。

塩だの光だの、急によく分からないことを話し出しましたわ。

修行のし過ぎで頭がおかしくなったのかしら。

塩はかつて貨幣としての価値を備えていた。

サラリーマンの「サラリー」は塩(salt)が語源になっている。

もしくは食品の保存料としても有用なものだ。

ただ、あえて「地の」と言っているのだから、その理由が欲しい。

マックマスター大学教授ジョージ・シリントンは畑の肥料という説を出している。

弟子たちに肥料となることで未来を示せというのさ。

個人的にはこの説を押したいね。

なるほど。

イエス様が「お前ら、人々のための肥やしになれや」言うてんのやな。

そんで光は分かりやすい気ぃするわ。

世の中を照らして、人々を導けっちゅうことやろ。

おそらくね。

そしてそれも『イザヤ書』に関連が見られる。

『イザヤ書』第49章6節

主は仰せになる、

「お前がわたしの僕としてヤコブの諸部族を立ち上がらせること、

イスラエルの生き残った者を帰らせることだけでは足りない。

わたしはお前を諸国の光とし、

地の果てに至るまでの、わたしの救いとする」。

光となり、イスラエルに限らず多くの者に救いを……。

それが「光」であることの意味なのかしら。

従来の教えも異民族に光を照らすものではあった。

『イザヤ書』自体、旧約聖書の一つだからね。

しかし、イエス・キリスト以降はより世界宗教としての色合いを増していく。

この後、イエスは律法について語る。

よくイエスは律法学者と対立したと言われている。

しかしイエス自身は決して律法を蔑ろにはしない。

律法学者に勝って律法を実現すべきと言う。

さすがイエス様や。

相手を非難するだけのアンチやのうて、相手の上を行こう言うわけやな。

せやけど、どないしたら勝ることになるんやろか。

殺人の規定がある以上に、兄弟を罵ってはいけない。

姦淫の規定がある以上に、女性をやましい目で見てはいけない。

そしてかの有名な言葉、「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」などだ。

叩かれたのに叩き返さないのはアホですのよ。

弱みに付け入る連中を図に乗らせるだけですわ。

頬の話ほど有名ではないけれど、衣服の話もあるよ。

「訴えて下着を取り上げようとする者には、上着をも取らせよ」とね。

下着泥棒無罪かな?
「汝の敵を愛せよ」とイエスは言う。

それはつまり、神のように振る舞えということだ。

神は善悪かまいなしに太陽を昇らせ、雨を降らせる。

そしてその愛は慎ましく行い、偽善者のように見せびらかしてはいけない。

人の過ちを赦すなら、あなた方の天の父もあなた方を赦してくださる。

しかし、あなた方が人を赦さないなら、

あなた方の父も、あなた方の過ちを赦してくださらない。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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