12.虫のうんこを食べる

エピソード文字数 943文字

イスラエルの子らはモーセとアロンに不平を言った。

「荒れ野につれてきて、飢え死にさせようとしているのか」

「エジプトの地で飽きるほどパンを食べている時に死ねば良かった」

モーセは言った。

「神様が朝にはパンを飽きるほど与えてくださる」

なんちゅうか、こいつら文句ばっか言うとるな。

たまにはモーセのために働こうとか思わんのか。

ずっと強制労働で奴隷のような生活だったからね。

いわゆる奴隷根性ってやつさ。

「強者に対する盲目の絶対の服従、これが奴隷制度の生んだ一大道徳律である」

大杉栄か。渋いとこつくなあ。
しかしまあ、空腹時のイライラは半端無いからな。

文句言いたなるんも分かるわ。

夕方になると鶉(うずら)が飛んできて宿営地を覆った。

朝には宿営地の周りに露が降りていた。

その露が上がった後、荒れ野の面に霜のような細かく薄いものが残っていた。

モーセは「これは神様が与えてくれたパンである」と告げた。

「霜のような細かく薄いもの」?

なんやそれ。

そんなんパンとちゃうやろ。

確かに、パンらしからぬ表現だね。

でも彼らはそれを食べることで飢えを凌いだんだ。

イスラエルの家はそのものの名を“マナ”と呼んだ。

コエンドロの種に似て白く、密を入れた煎餅のようであった。

コエンドロはコリアンダーのこと。

種は真っ白ではなく、茶色がかった白だね。

密を入れた煎餅のよう……。
ぽたぽ……。
違う。
……。
ほなら何やねん、マナって!
マナが実際に何だったのかは分からない。

ただ有力な説として、虫のうんこだったんじゃないかって言われている。

うん……。
こ♪
んな、アホな!
それがそうでもない。

その虫というのは、コナカイガラムシのことなんだけどね。

英語でmealybugって言うんだ。

mealyは「粉状の」って意味だけど、パンで粉と言えば?

こ、小麦粉のことか。

そして名前の通り食べ物(meal)に関連するものでもある。

コナカイガラムシはアブラムシみたいなもので、排泄物が甘いんだ。

その甘露を集めて乾燥させて、お菓子だって作れる。

他にも果物とかキノコとか説はあるみたいだけど。

モーセが「パン」だと言い張るところを見ると……。

やっぱりコナカイガラムシのことなんじゃないかって思うね。

それにしてもそこまで大量には取られへんやろ。

かなりひもじい思いしたやろなあ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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