2.ローマ帝国レギオン軍団

エピソード文字数 1,476文字

『マルコによる福音書』は『マタイによる福音書』とほぼ同じ内容だ。

だから一つ一つを丁寧に見ていくのはやめておこう。

異なる箇所について拾い上げてみたい。

『マルコによる福音書』はイエスがヨハネに洗礼を受けるところから始まる。

受胎告知とか、そういった話は無しだ。

話が早くて助かりますわ。
そんでから弟子を取ったり、奇跡で病人癒やしたりやな。
そうだね。

ただ弟子のところで一つだけ。

「徴税人レビの召命」という箇所がある。

実はこれはマタイのことだと言われている。

イエスはアルファイの子レビが収税所に座っているのを見て、

「わたしについて来なさい」と仰せになった。

すると、彼は立ち上がって、イエスに従った。

名前はちゃうけど、話の流れは同じやな。

レビはマタイの別名っちゅうことか。

『マルコによる福音書』と『ルカによる福音書』で「レビ」となっている。

どちらもレビがマタイと明言してはいない。

しかし否定する材料も無いから、レビ即ちマタイで良さそうかな。

その後、十二使徒の選定、ベルゼブル論争、たとえ話の説教を経る。

そして話は「ゲラサの悪霊憑き」へと進む。

「ゲラサの悪霊憑き」?

『マタイによる福音書』では「ガダラの悪霊憑き」というのがありましたが。

「ゲラサ」と「ガダラ」は全然別の場所なんだ。

書かれた順で言えば『マルコ』の方が『マタイ』よりも先。

つまり、元々「ゲラサ」と言っていたのをマタイが「ガダラ」に書き直した。

なるほど。

せやけど、なんでそんなことしたんや?

おそらく、ゲラサが遠すぎたんだよ。

次の地図を見てもらうと一目瞭然さ。

あらあら。

ガリラヤ湖からゲラサまで随分と距離がありますわね。

だいたい50kmといったところかしら。

距離に気づいてマタイが書き換えたんじゃないかという話さ。

それ以外の内容は基本的に『マタイ』と同じだ。

ただ、悪霊の名前の有無という相違点がある。

『マタイ』だと無名だったけれど、『マルコ』には名前が付いていた。

イエスが、「お前の名は何というのか」とお尋ねになると、

「わたしの名はレギオンです。わたしたちは大勢いますから」と答えた。

レギオン言うたらローマ帝国の軍団のことやな。

だいたい6,000人くらいで、10のコホルス大隊で構成されとる。

そのコホルス大隊は3のマニプルス歩兵中隊。

マニプルス歩兵中隊は2のケントゥリア百人隊。

時代によっては異なるけれど、だいたいこんな感じやな。

さすがお姉さま。

天軍を司るお方。

悪霊にそんな名前付けるなんて、やっぱ意味あるんかな?

イエス様はレギオン軍団よりも強いみたいなニュアンス込められとるとか。

まさに、ハワード大学のマイケル・ウィレット・ニューハートが同じ意見だね。

ローマ支配下においてレギオン軍団を意識せざるを得ないだろうということだ。

そしてイエスはそれに打ち勝つ力を持っている。

韓国出身のフラー神学大学教授セヨン・キムは異なる視点を持っている。

ラテン語のレギオは一般的に「たくさん」という意味で使われたと言う。

ヘブライ語やアラム語にとっての借用語だったという指摘さ。

仮にそうだとしても、さほど変わりないでしょう。

ローマの脅威を身近に感じながら、「たくさん」の意味だけで通じるものかしら。

借用語として使っていたとしても、レギオン軍団を想起したと思いますわ。

イエスがそれ(悪霊が豚に乗り移ること)をお許しになると、

汚れた霊どもはその人から出ていき、豚の中に入った。

すると、およそ二千頭の豚の群れが、崖から湖へ雪崩れ落ち、おぼれて死んでしまった。

二千頭のぶぅちゃん……。

どうか安らかに。

後でわたくしが料理して差し上げますわ。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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