3.偽使徒

エピソード文字数 1,375文字

わたしは、自分があの「お偉い使徒の方々」に比べて決して劣っていないと思います。

たとえ、話す言葉は素人でも、知識についてはそうではありません。

わたしたちは、すべての点であらゆる場合に、そのことをあなた方に示してきました。

「お偉い使徒の方々」とはどなたのことかしら。

これはパウロによる使徒批判ということ?

例えば、ペトロやヤコブ、ヨハネのようなイエスの直弟子たち。

なんかちょっと悲しいなあ。

確かにパウロは知識も豊富なんやろけど。

それでもイエス様を支えてきた人らを腐すことあらへん。

そんな風に読めてしまうよね。

でも焦ることはない。

19世紀の神学者ハインリヒ・マイアーは異なる意見を提供してくれている。

(Meyer's NT Commentary on 2 Corinthians 11 参照)

初期の教会関係者たちは、そのまま12使徒を指すと思ったらしい。

けれど17世紀の司祭リチャード・サイモンらは12使徒ではなく偽使徒だと考えた。

その考えは前後の内容を見れば腑に落ちると思う。

『コリントの人々への第二の手紙』第11章3節

ただ、わたしが恐れるのは、

蛇がエバを悪だくみで欺いたように、あなた方の思いが惑わされて、

キリストに対する真心と純潔から離れてしまいましないかということです。

パウロは語る。

自分たちが語るのとは異なるイエスを広めようとする連中がいると。

そして続く言葉が「お偉い使徒の方々」だ。

皮肉で言っていると考える方が自然な気はするね。

自分たちが語るイエスこそが正しいイエスだと。

ニーチェの憤慨する表情が目に浮かびますわね。

(無報酬の宣教活動について)

わたしは、今行っていることをこれからも行います。

わたしたちと同様に誇ることができるとみなされようと、

機会を狙っている連中から、その機会を断ち切るためです。

こういう連中は、偽使徒、腹黒い働き手、

姿を偽ってキリストの使徒のように自分を見せかける者です。

ちょっと前まで、偽預言者が主流やったのに。

今度は偽使徒のお出ましか。

グノーシス主義やと、この世は偽の神様デミウルゴが創造したんやろ?

世の中偽物だらけやで、まったく。

極端な言い方をすればパウロ自身が偽使徒ではないかとも言える。

なんせ彼は生前のイエスに従ったわけではない。

あくまでも霊的な存在としてのイエスに「会った」というだけだ。

哲学者のバートランド・ラッセルやニーチェがそのへんの疑問を呈している。

特にニーチェの『アンチクリスト』は有名だ。

民衆のルサンチマンに訴えたパウロを強く非難している。

小説家レフ・トルストイは、パウロの教えはイエスから逸脱していると申しています。

キリスト教アナーキストのアモン・ヘナシーはキリストの教えをスポイルしたとまで。

現代日本でも、反パウロの声はそこかしこに散見されますわね。

パウロ、色々言われとるんやな……。

せやかて、パウロが色々精力的に活動しとるおかげでキリスト教が広まってきとる。

うまいことバランス取ってくれるから、入信しやすくなっとるんやで。

宗教が最初期とは異なってくるなんて、よくあることだね。

仏教にしたってシッダールタから随分と変化したもんだ。

僕個人はなんだかんだでパウロという人物を尊重したい。

彼によって基礎が固められたことにより、2000年続く信仰が生み出された。

結果論になるけれど、その事実が何よりも重い。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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