12.アッシリア王センナケリブ

エピソード文字数 1,485文字

イスラエル王国は滅びたけれど、ユダ王国はまだ残っている。

彼らは王ヒゼキヤを中心に、主への信仰を抱いてアッシリアに抵抗した。

とは言え状況は芳しくない。

上の地図はアッシリア王国の版図を示している。

紀元前671年にはエジプトさえも飲み込んでいるのが分かるね。

新アッシリア時代。

まさに世界帝国が築かれんとした時期ですわね。

アッシリア王センナケリブはユダ王国内で城壁のある町全てを占領した。
終わったな。
アンモン、モアブ、エドムといった町は抵抗せずに降伏した。

エクロンはエジプトの援軍を頼ったけれど、それは打ち負かされてしまうんだ。

とは言えこれでユダ王国が滅びたわけじゃない。

センナケリブは町々を破壊せず、ヒゼキヤの王位もそのままにした。

代わりにヒゼキヤは金銀財宝をアッシリアに納めた。

主の神殿の扉と柱をヒゼキヤ自身が切り取って、それも渡したと聖書に書いてある。

神の神殿を自らが傷つけて、それを憎い敵に捧げなければならない。

さぞかし悔しい思いをしたことでしょうね。

しかしアッシリア王は再度攻撃を仕掛けてきた。
アッシリアの将軍ラブ・シャケはセンナケリブの言葉を告げた。

「口先だけの言葉が戦略や戦力であると思うのか」

「エジプトを頼みにしたところで自らを傷つけるだけだ」

「ヒゼキヤに騙されず、降伏すれば衣食住が与えられる」

ラブ・シャケはこれを自身のアラム語ではなく、ユダの言葉で告げる。

それはエルサレムの民にも聞かせて動揺を誘う作戦だった。

言葉から察するに、ユダ王国がアッシリア王国に逆らおうとしたんだろうね。

エジプトと何かしらのやり取りがあったのかもしれない。

死にたくなければ投降せえっちゅうことやな。

なんせイスラエル王国は滅んで、ユダ王国はアッシリアに占領された身や。

エジプトも頼りになるかどうか分からへん。

そうなったら、おとなしゅう降伏しよ思うてもしゃあない。

アッシリアは寛大なことに、他民族の信仰までは奪いません。

どこかの神とは大違い。

大量捕囚政策によって、どこか知らない土地に強制移住されるでしょうけれど。
ヒゼキヤは預言者イザヤに助言を求め、使者を送った。

イザヤは神の言葉を伝えた。

「わたしは一つの霊を彼の中に入れ、彼は自分の地に引き返す」

「その地でわたしは剣で彼を倒す」

絵はアントーニオ・バレストラ作。

バロック、ロココの時代に活躍したイタリア人画家だね。

ありがたいことに、神がセンナケリブを追い払ってくれるそうだ。
久しぶりに、雹(ひょう)でも降らすんかな?
なんと天使が降りてきて、アッシリアの兵185,000人を打ち殺した。
お姉さま、素敵!
なんや、うちか。
さすがだねミカちゃん。

たった一晩で20万人弱の大量虐殺だ。

絵は毎度おなじみのルーベンス。

ミカちゃんに怯える人々の表情がとても豊かだよね。

まあ、うちは強いからな。

戦場に出くわしてびびるんもしゃあない。

この聖書の出来事を現実的な解釈に落とし込もうという動きはある。

20世紀から21世紀に活躍した歴史家のウィリアム・ハーディー・マクニール。

彼は天使ではなく、コレラのような病気が原因ではないかと言っている。

(Plagues and Peoplesを参照)

他にはエジプト軍がかけつけたという説もある。

元新聞記者の歴史家ヘンリー・オーバン(Henry T. Aubin)の著書によるね。

(The Rescue of Jerusalem: The Alliance Between Hebrews and Africans in 701 BCを参照)

ともあれ、今回はユダ王国も命拾いしましたわね。
しかし、それもいつまで続くことやら。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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