5.マカバイの父マタティア

文字数 1,250文字

シリア王アンティオコス4世エピファネスの圧政は過酷を極めた。

そうした状況に抗う人物が登場する。

彼の名はマタティア。

『マカバイ記』の主役である、ユダ・マカバイの父親だ。

そのころ、マタティアがエルサレムを立ち去ってモデインに居を定めた。

彼には5人の息子がおり、その一人がマカバイと呼ばれたユダである。

モデイン。

上の図でモディン・マカビム・ロイト(Modi'in-Maccabim-Re'ut)とある辺りだ。

テルアビブの南東35km、エルサレムから西に30kmの距離にある。

5人の息子たちは全て、あだ名と名前で語られる。

その一人がユダで、彼のあだ名を「マカバイ」と言う。

変わったあだ名やな。

なんか意味のある名前なんやろか。

アラム語の「maqqaba」(現代ヘブライ語の「makebet」)が由来とか言われてる。

その意味は「スレッジハンマー」だ。

使っている武器がスレッジハンマーだったのかしら。
もしくは、本人の獰猛な力を示してるんかもしれんな。
他には「Mi kamokha ba'elim Adonai」を略したものというのもある。

日本語では「主よ、神々のうち、だれがあなたに比べられようか」と訳される。

直訳すると、「神(Adonai)は誰に似るか」となるね。

このフレーズは『出エジプト記』に記されている。

このフレーズをバトルクライ、つまり鬨(とき)の声に使ったとも言う。
攻め込む時とか、「マカバーイ!」て叫んだんやろか。

いきなり言われたら「え、何?」ってなりそうやけどな。

実はこの名は後のスコットランド王マクベスに繋がるという説がある。

マクベスの名は「生命の子(Mac Beatha)」を意味する。

(『Book of Jewish and Crypto-Jewish Surnames』Judith K. Jarvis他著を参照)

話が長くなりましてよ。

その父親のマタティアはどうしましたの?

セレウコス朝シリアの役人たちがマタティアの住むモデインにも来てね。

やはりエルサレムで行ったのと同様、彼らに背教を迫るんだ。

そしてそれに従おうとするユダヤ人も現れた。

マタティアは義憤を覚え、そのユダヤ人と役人を殺してしまう。

実力行使か。

ただでは済まされへんな。

マタティアは仲間を連れて山に逃げた。

当然、シリア兵は彼らを追う。

そして安息日に襲い掛かり、千人のユダヤ人を殺した。

卑怯やな。

安息日を律儀に守る敬虔な連中を殺したわけや。

しかし相手の急所を突くことは当たり前のことですわ。

これはスポーツではありませんもの。

マタティアはこれを受けて、安息日であっても防衛戦は認めようと言った。

自分たちから打って出ることはなくとも、身を守ることは大事だからね。

安息日、つまり土曜日に限っては専守防衛に努めるっちゅうことやな。
マタティアは死の前に遺言を残した。

兄弟の内、シモン・タシが最も思慮深いゆえに、彼に従うこと。

そして、ユダ・マカバイが最も勇猛であるがゆえに、彼を軍の指揮者とすること。

徹底的な復讐と、律法の遵守を求めて死んだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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