1.バアル・ゼブブ

文字数 1,183文字

アハブの死後、イスラエルの王となったのは息子のアハズヤだった。
先に言っておくと、彼はその治世においていいとこ無しで終わる。

まず同盟相手のユダ王ヨシャファトと共に金を得るための船団を組んだ。

しかしその船は難破してしまった。

原因は『歴代史下』に、アハズヤが悪事を行っていたからだと書いてある。

それに腹を立てたんだろうね。

難破した時、ヨシャファトはアハズヤを助けようとしなかった。

そら、誰かて難破を起こした元凶を助けたいとは思わんな。

ほんまにそうやったとしてやけど。

アハズヤの不幸はまだ続く。
アハブの死後、モアブはイスラエルに反逆した。

アハズヤはサマリアで、階上の窓から落ちて怪我をした。

モアブは死海の東、イスラエルの南に位置する国だ。

その国がイスラエルに攻撃を仕掛けてきた。

そんな大事なときに窓から落ちて負傷ですって?

いったい何をしているのかしら。

まったくだね。

傷が心配なアハズヤはバアル・ゼブブに治るかどうかを聞こうとした。

バアル・ゼブブ?

バアル・ゼブルやのうてか?

前に少し話した通り、元々はバアル・ゼブルという呼び名だった。

その意味は「崇高なるバアル」ということ。

それを少し変えてバアル・ゼブブと呼んだ。

これは「蠅の王」「糞の王」という意味で嘲笑を込めた呼び名なのさ。

聖書は後世の草どもによって書かれたもの。

アハズヤ自身はきっとバアル・ゼブルと呼んだのでしょうね。

アハズヤがバアル・ゼブブに伺いを立てようとすると、神様は怒った。

エリヤをアハズヤの使者に会わせて、アハズヤの死を宣告させた。

神様相変わらずブレへんなあ。
アハズヤは50人隊の隊長を部下50人と共にエリヤに向かわせた。

隊長がエリヤに付いて来るように言うと、エリヤは天からの火で兵たちを焼き尽くした。


また、アハズヤは50人隊の隊長を部下50人と共にエリヤに向かわせた。

また、隊長がエリヤに付いて来るように言うと、エリヤは天からの火で兵たちを焼き尽くした。

いや殺しすぎやろ、話くらい聞いたれや。
三顧の礼か三度目の正直か。

三人目の隊長は真っ先にエリヤに跪いて懇願した。

すると天使が来てエリヤに「恐れてはならない」と言って付いて行くよう促した。

「恐れてはならない」とあえて言ったのは。

案外、エリヤは危害を加えられることを恐れていたのかしらね。

エリヤは別に強い戦士というわけでもない。

アハブやイゼベルからは逃げてもいたしね。

そしてアハズヤに会ったエリヤはこう言うのさ。

「お前は寝台から降りることなく必ず死ぬ」とね。

何でか知らんけど、窓から落ちて怪我。

そんでそのまま死んでしもたんか。

確かに、ええとこ無しやな。

アハズヤには息子がいなかったので、弟のヨラムが王位を継いだ。

その頃、ユダ王国ではヨシャファトの息子ヨラムが王となっていた。

どっちもヨラムだから、混同しないように注意してね。
名前の重複が増えてきましたわね……。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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