11.割礼 対 無割礼

エピソード文字数 1,059文字

ヨナタンはダビデを自分自身のように愛し、彼と契約を結んだ。

着ていたマント、服、剣、弓、帯をダビデに与えた。

ヨナタン、ダビデのこと好き過ぎやろ。

どないしてん。

ヨナタンはサウルの息子だから、順当に考えれば彼が次の王だ。

けれどこの場面は、その身分を差し出すことを象徴しているね。

ダビデはサウルの命を受け、攻撃隊の隊長として各地を転戦する。

そして次々と成功をおさめていった。

ゴリアテを倒したんも、まぐれやない。

それを証明したってことやな。

しかしそれがサウルの妬みを呼ぶことになってしまう。
イスラエルの女たちがサウルを迎える際、戯れに歌を歌った。

「サウルはいく千もの敵を討ち、ダビデはいく万もの敵を討つ」

ダビデに劣るかのような歌に彼は腹を立て、ダビデを殺そうとした。

別にダビデが悪いわけでもないのに、もう殺す気か。
このタイミングでまた神からの悪霊(あくれい)が取り付いている。

精神的な病だったんだろうね。

初代王という責任の圧力に耐えられなかった、という人もいる。
気に入らないから殺す。

それ自体は別に構わないのだけれど。

なんだか、卑屈な感じがして嫌ね。

サウルは自分からダビデを遠ざけるために戦場に送る。

でもダビデは次々に武功を立てて、民衆の支持を得始めてしまう。

サウルの娘、ミカルはダビデを愛していた。

サウルはダビデに、ミカルと結婚し、結納金のためにペリシテ人の包皮100枚を用意するように言った。

いらんわ。
当時のイスラエル人たちはペリシテ人を「無割礼」と言って嘲った。

だから包皮を持ってこいというのは、割礼を施してやれくらいのニュアンスだろうね。

ん?

割礼……?

どうしたの?
ミケランジェロのダヴィデ像あるやん。

あれって皮被ってへんかった?

ああ、これはたぶん、ミケランジェロがキリスト教社会の人間だからさ。
と、言うと?
ユダヤ教徒とキリスト教徒の大きな違いに割礼がある。

割礼をすることはユダヤ教徒の証でもあるんだ。

ダヴィデ像に割礼を施せば教会に睨まれる。

そんな風に思って、あえて皮被りにしたんじゃないかな。

たかが人形の男性器に皮があるか無いか。

そんなことでいちいち揉めるかもしれないだなんて。

阿呆ね阿呆。

いっそ、男のあれなど全部切ってしまいましょう。

(ビヨンデッタなら本当にやりかねないな……)
ともあれダビデはサウルの命に従ってペリシテ人と戦った。

そして約束の倍、200人分の包皮を持ち帰ってきた。

そんなにもろて、どないすんのやろ。
そしてダビデはミカルを妻とし、ミカルはダビデを愛した。

サウルはますますダビデを恐れるようになったんだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色