1.クセルクセス1世の酒宴

文字数 1,420文字

クセルクセス1世はアケメネス朝ペルシアの王。

ヘブライ語聖書ではアハシュエロスとも呼ばれている。

物語の主人公はエステル。

彼女には父も母もおらず、モルデカイという男の養女となっていた。

『エステル記』はこのモルデカイが見る夢から始まる。
モルデカイはユダヤ人で、宮廷に仕える有力者であった。

彼はニサンの月の一日に夢を見た。

二頭の竜が争い、混乱が地上を覆い、義の民は滅亡を覚悟し、神に助けを叫ぶ。

小さな泉が大河となり、光が現れ、太陽が昇る。

卑しい者は高められ、高貴な者を食い尽くした。

なんともメタファーに富んだ表現ですこと。

これでは、何が何やらさっぱりですわ。

この後に起こる出来事を比ゆ的に表現しているんだ。

夢の内容を読み解くのは『創世記』のヨセフが得意にしていたね。

モルデカイは自分の見た夢について、そういう読み解きを試みた。

モルデカイについてはいったん区切って、クセルクセスの話に移る。

彼は「酒宴」を催したとされる。

王は大臣、家来、将軍、宮廷に滞在する諸州の高官たちを集めて酒宴を催した。

180日の長期に渡り、国の富、王の偉大さ、華やかさを示した。

いやいや、180日て長すぎるやろ。

どんだけ酒好きやねん。

単なる酒宴ではなく、軍事的な側面もあったのかもしれない。

実は後に、クセルクセスはギリシアへの大規模遠征を企てるんだ。

映画『300』の元となったテルモピュライの戦い。

スパルタ王レオニダス1世を打ち破ったペルシア王こそがクセルクセス1世なのさ。

裸祭りやないか!
この絵を知っていれば、映画はむしろ「厚着」だったと言えますわね。
フランス新古典主義の画家、ジャック=ルイ・ダヴィッドの作。

彼はフランス革命という激動の時代を生きた画家だ。

「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト」は誰もが知る名画だよ。

酒宴では、ぶどう酒が惜しみなく振舞われた。

しかし命令により、飲酒を無理に強いられることはなかった。

王が各人の好みに任せるよう命じたのだ。

立派な王様やないか。

2000年以上前から酒の無理強いは問題視されとったってことやな。

日本では昨今、アルコールハラスメントなどと呼ばれていますわね。

無理に酒を飲ませて人を死なせるようなことまで起きたとか。

ぶどう酒に酔って浮かれたクセルクセスは、王妃ワシュティを呼んだ。

美しい彼女を列席の人々と大臣に見せるためであった。

しかし彼女は命令を拒み、酒宴の席に現れなかった。

19世紀イギリスの画家、エドウィン・ロングの作品だね。

タイトルは「王の召喚を拒むワシュティ」

見るからに嫌そうな表情がとってもチャーミングだ。

王妃はどないして拒んだんやろか。
明確な理由は分からない。

酔っ払いに呼ばれて見世物にされることを拒んだのかもしれないね。

そういう解釈で、彼女はフェミニストにとっての偶像にもなっている。

アメリカで奴隷制廃止運動に尽力したハリエット・ビーチャー・ストウ。

彼女はワシュティを「女性の権利のため立ち上がった最初の人物」だと言う。

以降、様々な場面でワシュティが語られるようになったのさ。

酔っ払いに呼ばれて気分悪いんも分かるけどな。

そないなことして、平気やったんか?

もちろん平気じゃない。

ワシュティは王妃の位を剥奪され、二度と王の前に出れなくなってしまった。

彼女が彼女の信念をもってなしたこと。

その結果であれば是非もありませんわ。

そしてクセルクセスは新たな王妃となる女性を探す。

その女性こそが物語の主人公、エステルなのさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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