2.中庸

エピソード文字数 1,218文字

現に聞くところによると、あなた方の間には、みだらな行い、

しかも、異邦人の間にも見られないようなみだらな行いがあり、

父の妻を自分のものにしている者さえあるとのことではありませんか。

「父の妻」て、自分の母親ちゃうんか?
さすがにそういうわけではないだろう。

ここではおそらく、義理の母、父親の別の妻とか再婚相手を指すんだろう。

そうした相手と結婚してはいけない。

これは律法にも記されているし、ローマの法律でも定められていたらしい。

『レビ記』第18章8節

お前の父の妻の隠し所を露わにしてはならない。

それはお前の父の隠し所である。

『申命記』第23章1節

「男は自分の父の妻を迎えて、父の衣の裾をめくってはならない」。

なんでも律法に従えば良いというものではない。

そのように言うのでしたら、これも別に守る必要などないのでは?

愛ゆえのことならば、なおのこと。

さして社会的に問題な行為とも思えませんわ。

律法を完全に否定する考えを反律法主義、アンチノミアニズムと言う。

「律法(ノモス)」に「反対(アンチ)」する「主義(イズム)」だね。

そうした考えによればビヨンデッタの言うように何でもありさ。

以前少し触れたグノーシス主義。

これこそまさにアンチノミアニズムの代表さ。

例えばニコライ派と呼ばれる人たちは、信仰を持っていれば姦通は罪ではないと信じた。

なんせ創造神が偽物やっちゅうのがグノーシス主義やからな。

モーセの律法も全部間違ってる言うのは筋が通っとる。

義母と結ばれてもええやんってなるやろ。

せやけど、それやとほんまに何でもありになってまうやん。

社会に生きる人間として、さすがに問題視されるやろ。

下手したら反社会勢力として取り締まられてまうで。

線引きの問題だね。

そもそもイエス自身、決して律法を無視したわけじゃない。

それどころか律法を正しく行っているという主張だったわけだ。

「律法主義」は良くないけれど、「反律法主義」も受け入れるわけにいかないのさ。

アリストテレスが言うところの「中庸」ですわね。

ギリシア語では「メソテース(Mesotes)」で「中間」「平均」の意味となります。

うまくバランスを取って、より良い状態を模索する。

地味ですが、賢い選択と言えましょう。

地味な選択は不人気だけれどね。

それを強く推し進めることが長い安定をもたらすものだ。

パウロも手紙の中で、異教徒と一切付き合うなとは言わないと明言している。

完全にコミュニケーションを絶とうとしたら死ぬしかない。

外部の人間を裁くのは教会ではなく神だと言う。

その上で、内部に悪い人間がいたら「一掃しなさい」と言っているのさ。

割礼はせんでもええけど、近親相姦禁止は守りなさいってことやな。

その時々の肌感覚が大事な気ぃするわ。

わたしが書いたのは、兄弟と呼ばれる人で、

みだらな者、貪欲な者、偶像を拝む者、人を謗る者、

酒におぼれる者、人の物を奪う者があれば、

このような人とは付き合わず、食事もともにするなということです。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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