2.悪の栄え

文字数 1,343文字

わたしがあなたと争う時に、正しいのは、主よ、あなたです。

それでも公正について、わたしはあなたと話したい。

なぜ悪人の道が栄え、不忠実の極みの者がみな、安穏としているのですか。

神がいるのなら、何故悪人をのさばらせるのか。

これは2000年以上経った現代においても通じる問いだ。

誰だって思うことさ。

「悪が栄えた試しなし」なんて、ほんとなのかとね。

せやなあ。

悪は許さん言うても、現実問題悪い奴はぎょうさんおる。

殺人とか強盗とかも世界のどこかでしょっちゅう行われとることや。

そんな状態やのに、神様はなんでほったらかしにすんのやろ。
まったくだよ。

僕らのような善人には度し難い。

ええ。

まことに、まことに。

悪人の栄えについて語るのは『エレミヤ書』だけではない。

他の聖書についても確認しておこう。

『ヨブ記』第21章7~8節

なぜ、悪人どもが生き永らえ、年を重ねて、なお力を増すのか。

その子孫は彼らの前に栄え、その末裔は彼らの目の前で増え続ける。

ヨブが家族も財産も無くしてすってんてんの時やな。

善人であり続けたヨブがこないな思いしてんのに、悪人は元気いっぱい。

それってどういうことなんって言いたなるの分かるわ。

ヨブに対し友人のエリファズが答えます。

神は悪人を生かしているように見えるが、そうではない。

しばしの間栄えたとしても、やがて麦の穂先のようにしおれると。

そうは言うけれど、やはり今苦しんでいるのはヨブだ。

そして悪人は栄えている。

それを甘受して我慢を続けろというのは人の短い命に対して酷だね。

『ハバクク書』第1章4節

それ故、法は効力を失い、正しい裁きはいつまでも行われません。

悪い者が正しい者を取り囲み、そのため、裁きは曲げられています。

ハバクク?

誰やろ。

預言者の一人だよ。

と言っても、預言者であること以外ほとんど分からない。

この問いに対する神の答えはやはり未来についてですわね。

定められた時に、「心がまっすぐでない者は崩れ去る」と。

こんな風に、聖書では悪の栄えについて問いかける場面がある。

神など信じず、悪事を働いて好き勝手した方が豊かな生活ができるのではないか。

そんな疑問をやはり古代の人々も抱いたのだろうね。

せやけど、そないなことしとったら社会が成り立たへん。

「善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」とは言うけどな。

それでもやっぱ善人が多くないと、人は人を信頼でけへんやろ?

まあ、ここで言う悪人って、即ち異教徒くらいのとこあるけどね。

広い意味での悪人と捉えて『エレミヤ書』の続きを見てみよう。

主はこう仰せになる、

「見よ、わたしはその土地から彼らを抜き取り、

彼らの中からユダの家も抜き取る。

しかし、彼らを抜き取った後、わたしは再び彼らを憐み、

それぞれ自分の所有地に、自分の地に帰す。」

悪人は罰する。

しかし許しもする。

神も随分と丸くなりましたこと。

以前であれば、問答無用で大虐殺でしたのに。

放浪生活をしていた時は、すぐに疫病で死んでたしね。

そういう環境の違いもあるのかもしれない。

悪人でも改心したらちゃんと許してやる。

うちのボスはさすがやで。

ただ、これでちゃんと答えになっとるんかな。

「なぜ悪人の道が栄え、不忠実の極みの者がみな、安穏としているのですか」

この「なぜ」に答えられてへんのやないやろか。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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