18.エルサレム会議

エピソード文字数 1,097文字

時に、ある人たちがユダヤから下って来て、兄弟たちに、

「モーセの習わしに従って割礼を受けなければ、あなた方は救われない」

と教えていたので、パウロやバルナバと、その人たちの間で、激しい対立と論争が生じた。

さきっちょを切り取るか否かで大論争……。

他に話し合うべきことは山積みではないかしら。

割礼はイスラエルの民にとって重大案件やからな。

割礼せえへんってだけで、めっちゃ神様も怒っとったし。

『創世記』第17章10-11節

お前たち、およびお前の跡に続く子孫も、代々にわたり、わたしの契約を守れ。

すなわち、お前たちの男子はみな、割礼を受けよ。

お前たちは包皮の部分を切らなければならない。

これは、わたしとお前たちの間の契約の徴となる。

割礼は『創世記』においてアブラハムから続く神との契約だ。

以来、イスラエルの男子は生まれて八日目に割礼を受けることになった。

異邦人に対する「無割礼」というあざけりの言葉もある。

しかしキリスト教は異邦人にも救いをもたらす教えだ。

そうなると、割礼を受けていないキリスト教徒も増える。

ユダヤの伝統を受け継ぐキリスト教徒たちは割礼を受けるべきだと言う。

しかし、皮を切れと言われて、はいそうですかとは言いにくい。

それで、がん首揃えて会議始めよったんか。

汚れた動物も食べれるんやし、割礼くらいええやんって思うけどなあ。

現代ではユダヤ教とキリスト教は別の宗教だと認識されている。

けれど当時はまだそこまで明確に区別されていない。

キリスト教はあくまでユダヤ教の一宗派くらいの位置づけなんだ。

まだ「キリスト教」なるものの定義が固まっておりませんのね。

取捨選択について試行錯誤が進む時代、ということかしら。

わたしの判断としては、異邦人の中から神に立ち返る人々を悩ましてはいけません。

ただ、偶像に供えて汚れたものと、不品行と、絞め殺したものと、

血とを避けるように、彼らに書き送るべきだと思います。

パウロはこのように言って、割礼をしなくても良いということになった。

この会議が無ければ今頃、キリスト教徒は割礼をしていたか……。

いや、それよりは宗教として広まることもなかったかもしれないね。

会議でそう決まったんは分かった。

せやけど、それは神様的には構わへんのか?

汚れた動物と違うて、イエス様が何かしてくれたわけでもないやろ。

神学的な裏付けは正直なところ無さそうだ。

20世紀のアメリカのカトリック司祭、ジョセフ・フィッツマイヤーもそう言っている。

これはユダヤ人と非ユダヤ人との間においての妥協であるってね。

それで、後は守りやすそうなルールを残して良しとしたのですね。

いっそ、偶像崇拝も許容すれば良かったのに。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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