7.勝利の日々

文字数 915文字

カナン人アラドの王は、イスラエルと戦い、数名を捕虜とした。

イスラエルの民は神様に誓った。

「もしカナン人を我々の手に渡してくれれば、かの町々を滅ぼしつくします」

「滅ぼしつくします」とは。

なかなか好戦的なセリフやないか。

聖書ではこの後、その通りにアラドの町々をイスラエルが滅ぼすんだ。

そして滅ぼされた場所はホルマ(破滅)と名づけられた。

姉のミリアムを失い、兄のアロンを失い……。

民の多くを疫病で失い。

何人もの造反者を生み。

当人もかなり年を取り。

それでも勝ったんやな。
小さくはあっても勝利だ。

ここからイスラエルが前に進んでいく時だよ。

もちろんまだまだ苦難はある。

それでもようやく流れが生まれつつある。

アモリ人王シホンはイスラエルと戦った。

イスラエルは彼らを剣で討ち、すべての町を取った。

続けての勝利か。

最初の勝利が、まぐれやないってことかもしれんな。

この勢いはまだ続くよ。
イスラエルの子らはバシャンの王オグとその子ら……、

そして民の全てを一人残らず打ち殺し、その土地を占領した。

やるやないか。
かなり強いよね。

信仰による強さということなんだろうけど。

色んなものをそぎ落として、一致団結できる状態になってきたんじゃないかな。

その強さは周辺にも知られるようになった。

するとそれを警戒する人も現れた。

ツィボルの子バラクはモアブの王である。

彼はイスラエルがアモリ人に行ったことを見、非常に恐れた。

直接の戦闘を避け、イスラエル人を呪い殺そうと考え、バラムを招くことにした。

直接戦ったら負けると判断したんやな。

呪いでもなんでも、使えるもんは使おうってことか。

もし彼に呪いをかけられたら、イスラエル人もどうなっていたか……。
けれど神様がそうはさせなかった。
神様がバラムのもとに来て言った。

「イスラエルの民は祝福されている。彼らを呪ってはならない」

わざわざ神様が出向いて押しとどめたんか?

あなどれん奴やってんな。

バラムは神様の意思に従うんだ。

その後、バラクがより身分の高い使者を送った時、神様はバラムに「行け」と言う。

実は神様には考えがあった。

バラムには神様が命じることだけを行うように釘をさしておいたんだ。

敵を味方にするんやな。

戦略めいてきたやないか。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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