14.不正な管理人

文字数 1,206文字

先に言っておくと、「不正な管理人」の解釈は超難関だ。

まずこうだという明確な回答どころか、すっきりする解釈すら無い。

だから、何が正しいかは各々で判断してほしい。

ある金持ちに一人の管理人がいた。

管理人は主人の財産を使い込んでいると密告され、主人から明細の提出を指示された。

管理の職を取り上げられると行き場がない。

そうなる前に、自身を迎えてくれる家を増やすことにした。

管理人は負債者を呼び寄せて、その負債額を確認した。

そして「油百パトス」と言う者の証文を「五十」と書き直させた。

また「小麦百コロス」と言う者の証文を「八十」と書き直させた。

主人はこの不正な管理人の抜け目ない振る舞いを褒めた。

意味が分かりませんわね。

自分の財産を使い込んだ管理人が、またも自分の財産である債権を減らしている。

これはむしろ叱るべき場面で、褒める理由など全くないのではないかしら。

まず、負債を背負う人たちは奴隷や解放奴隷だろう。

つまり貧乏人だ。

その貧乏人の負担を減らすことは善行にあたる。

現世で財産を蓄えるより、天の富を積む方が良いということさ。

この解釈は4世紀頃の人物、アマスヤの聖アステリオスによって支持されている。

それで主人は管理人を褒めたんか。

管理人は利己的に振る舞っとるけど、主人はようできた人なんかな。

ただ本文においてイエスは決して管理人を称賛していない。

そこに目を付けたのがウィリアム・ティンダル。

16世紀に聖書をギリシア語・ヘブライ語から初めて英語に翻訳した人物。

これは単に知恵と勤勉の例を示したものだというのが彼の主張だ。

様々な寓話的解釈がなされる中、J.C.ライルはティンダルに賛意を示した。

彼は19世紀イングランド国教会の祭司だ。

このたとえ話の中に「正直さ(honesty)」も「感謝(grace)」も無いと言う。

(Expository thoughts on the Gospels, with the text complete/John Charles Ryle 参照)

そこで、わたしはあなた方に言っておく。

不正な富を利用して、友人を作りなさい。

不正な富……。

そう言えば悪魔マモンのことをそう呼ぶのでしたわね。

富とは不正な手段で得られることが多く、不正の源にもなるもの。

それをうまく利用することで、自身の道を切り開く知恵だと、そういうことかしら。

カトリック教会においては、もう少し設定が練り込まれる。

この主人は高利貸しであって、そもそも罪深い人だった。

管理人はそこでの仕事を悔い改めて、借りた額だけを返させるようにしたと言うんだ。

勝手なことをして、主人が褒める理由にはなりませんわね。
そらきっと、主人も一緒に悔い改めたんやで。
どんな僕(しもべ)でも、二人の主人に兼ね仕えることはできない。

一方を憎んで他方を愛するか、または一方に尽くし他方を軽んじるかである。

あなた方は神と富(マンモン)に兼ね仕えることはできない。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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