6.エステルの願いとハマンの思惑

エピソード文字数 1,093文字

祈りを終えたエステルは壮麗な装いとなり、侍女二人を呼び寄せた。

その一人に優雅に寄りかかり、他の一人には裾を持たせて後ろに従わせた。

美の極みにあり、その顔は愛らしく幸福に見えた。

しかしその心は恐怖に満たされていた。

王に呼ばれることなく王の前に行くんは重罪やからな。

死ぬかもしれへん恐怖に耐えて、気丈に振舞っとる。

偉い子やで。

まさしく命がけの勝負さ。

その緊張は推して知るべし。

エステルは全ての扉を通り抜けて王の前に出た。

ペルシア王クセルクセスは怒りに満ちた目で彼女を見つめた。

彼の威光に王妃はよろめき、気を失って侍女に倒れ掛かった。

あらまあ。

恐怖のあまり気絶してしまいましたわ。

頼りないこと。

クセルクセスの威光について、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスも言及している。

それは、ことわざになるほどに恐ろしいものだったのだとか。

最高権力者であり、彼自身が法でもある。

そんな男の前に出て恐怖するなと言う方が無茶なのさ。

せやけど、このままやと危ないんとちゃうか?

ただでさえ重罰もんやのに、目の前で倒れるとか。

その時、神がクセルクセスの心を穏やかにした。
ポーランド・リトアニア共和国の画家、フランチシェク・スムーレヴィチの絵だね。

予備知識無しに見れば、露出の多い美女に言い寄るおじさんって感じだ。

おっぱい見えそうやんけ。
クセルクセスはエステルが意識を取り戻すまで抱きかかえ、優しく語りかけた。

法律は一般の民にのみ向けられるので、エステルが死刑になることはないと。

エステルはクセルクセスを称えて、また気を失った。

王は困惑し、お付きの者たちは王妃を元気付けた。

最初は恐怖のあまりに失神。

そしてお次は緊張の糸が切れて失神。

お忙しい方でいらっしゃいますわね。
どことなく喜劇的だね。

その後改めてエステルは王に会う。

クセルクセスはエステルに、望みを何でも言うように促した。

彼はエステルを大いに気に入っていた。

なんなら国の半分でもやろうと言うくらいにね。

竜王様かな?

(注:ドラゴンクエストのボス竜王は勇者に「世界の半分をやろう」ともちかける)

ちゅうか、チャンスやないか。

ここでエステルがユダヤ人を助けてって言えばええんちゃうか?

しかし彼女はそうしなかった。

酒宴を開くから、ハマンと共に出席してほしいと頼むんだ。

ほほう。

何やら悪いこと考えてそうやな。

そうだね。

でも周囲はそんなこと気付かない。

ハマン自身は王妃に名指しで呼ばれたことを喜びさえした。

エステルの動機を知っている者からすれば、なんと暢気なことかと思うね。

そしてハマンはモルデカイに対する怒りを募らせた。

酒宴の席で、モルデカイの処刑を王に進言しようと企むんだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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