6.夢の中

エピソード文字数 1,351文字

(花嫁)

わたしは眠っていましたが、心は目覚めていました。

寝てるけど起きてる?

のっけから矛盾しとるやないか。

詩的表現だね。

ここの解釈は二通りある。

夢を見ている、ということかしら?

実際には眠っていて、心の中で目覚めているような状態ではないかしら。

それが一つの解釈だ。

もう一つは、白昼夢を見ているというものだよ。

実際には起きているけれど、まるで夢を見ているような状態というわけさ。

どちらの解釈が正しいかは分からないけれど。

いずれにせよ、この後に語られるのは非現実の世界だね。

(花嫁)

戸をたたいているわたしのいとしい方の声。

「開けておくれ、わたしの妹、わたしの愛する人よ。

わたしの小鳩、わたしの汚れない人よ。」

また鳩言うとるわ。
実は花嫁は鳩、という可能性が!?
ございません。
……。
(花嫁)

わたしは着物を脱いでしまいました。

どうしてまた、それを着ることができましょう。

わたしは足を洗ってしまいました。

どうしてまた、汚せましょう。

服を脱いだとか、足を洗ったとか、艶めかしい場面やな。
絵的にはそのように見えるかもしれませんわね。

ただ、ここは難しい乙女心を表現しているのではないかしら。

そうだね。

花婿が戸の外にいるのに、足を汚したくないと言う。

つまりベッドの上でくつろいでいて、花婿を迎え入れるのが億劫という場面なのさ。

確かに、おふとぅんの魔力にはうちも抗えん時があるからな。

サタンよりもおっかないで。

同時に、相手を焦らしているような気もいたしますわ。

何せ「いとしい方」なんですもの。

(花嫁)

わたしのいとしい方が、戸の穴に手を差し入れました。

あの方のためにわたしの心は高鳴りました。

ここは比喩表現として、実はけっこう際どい場面だ。

「戸の穴」と「手」が男女のあれこれを示している、と言われる。

そこは詳しく語っていただきたいところですが。

この場が成人指定でないゆえに控えておくといたしましょう。

なんや、二人して大人な会話してからに。

うちだけ仲間外れかいな。

ご安心をお姉さま。

のちほどゆるりと。

(花嫁)

わたしが、いとしい方のために戸を開けると、

わたしのいとしい方は踵を返して行ってしまわれました。

あの方が背を向けて去ったとき、わたしは気を失ってしまいました。

焦らし過ぎてしまいましたわね。

塩梅の分からぬ女はこれでたびたび愛を手放すもの。

遅すぎたんだね。

焦らしたのか、単に億劫だったのかは知らないけど。

夢の中で求めるものが離れていくことはよくあるだろう。

そういう想いの強さが表現されているのかもしれないね。

(花嫁)

エルサレムのおとめたち、わたしに誓ってください。

あなた方が、わたしのいとしい方を見つけたら、

あなた方は、あの方に何と言ってくださるのでしょう。

「わたしは愛に病んでいる」と言ってください。

愛の病か。

恋の病よりも重そうやな。

一連の流れから、愛について考えることが出来る。

ここで愛とは快楽ではなく、苦痛の中で見出すものとなっているね。

確かに、さっさと招き入れたら良かったんに。

そん時はさほど愛に病んだりしとらんしな。

失って初めて気づくもんもあるっちゅうことか。

また、これは神の愛だとも言える。

愛に病むとは、神の愛を求めて止まず、それに突き動かされる様を指す。

神の愛など何するもの。

乙女の熱情に勝るものなどございません。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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