7.憐れみ深い神の知恵

文字数 1,379文字

前回、ユダヤ人たちの不信仰について話したね。

とは言え、それでユダヤ人は完全に神に見放されたというわけではない。

そもそもイエス・キリストがユダヤ人だし、パウロ自身もユダヤ人だ。

信仰に目覚めさえすれば、また神に近づけるはずなのさ。

ユダヤ教を捨ててキリスト教に回心する。

それこそが救いの道ということですわね。

残酷だこと。

神はご自分の民を退けられたのでしょうか。

決してそうではありません。

わたしもイスラエル人で、アブラハムの子孫の一人であり、ベニヤミン族の者です。

決してそうではないって、なかなか強い表現やな。

反例に自分自身ってのも強力やで。

メ・ゲノイント(mē genoito)

英語に直訳すれば not become となります。

これを「決してそうではない」とか「神は禁じた」などと訳すようですわね。

パウロはユダヤ人は躓いたけれど、決して倒れてしまったわけではないと言う。

そしてユダヤ人の躓きによって、異邦人に救いがもたらされたと言う。

それをパウロは、オリーブの木の接ぎ木によって説明した。

枝のあるものが折り取られ、野生のオリーブであるあなたが代わりに接ぎ木され、

元の木の根から来る豊かな養分にあずかっているからといって、

元の木の枝に対して誇ってはなりません。

すまんサタニャエルくん、接ぎ木って何や?
構わないさ、軽く接ぎ木について話しておこう。

一言で表現すると、何かしら木の枝を別の木に繋ぎ合わせる手法だよ。

その時、枝の方を「接ぎ穂」と言い、土台となる木を「台木」と言う。

接ぎ木は近縁である方が定着しやすいけれど、そうでない組み合わせもよくある。

へえー、そんなこと出来るんか。

植物ってすごいんやなあ。

ちなみに、枝を切り取って、そのまま土に挿す、挿し木という手法がある。

枝から根っこが生えてきて、木に成長するんだ。

オリーブの木は種からではなく、挿し木で増やすのが効率的だね。

折れた枝がユダヤ人、野生の枝が異邦人ですわね。
その通り。

ユダヤ人にせよ異邦人にせよ、枝であることに変わりはない。

大事なのは根っこで、その恵みを受け取っているからといって驕ってはいけない。

そしてもしユダヤ人が回心すれば、野生の枝よりもスムーズに繋がれるとまで言う。

もともと野生であるオリーブの木から切り取られ、

手を加えて栽培されているオリーブに接ぎ木されたとすれば、

まして、もともと栽培されているオリーブの枝は、

どれほどよく元の木に接ぎ木されることでしょう。

種類が近い方が接ぎ木はうまくいきやすいんやもんな。

そら、同じ木から落ちた枝やったら、同じ種類で接ぎ木しやすいやろ。

この枝の取り換えは象徴的な意味を持っている。

元々はユダヤ人が神の恵みを得ていたけれど、今は異邦人が憐れみを得ている。

しかし折れた枝はまた接ぎ木することが出来る。

ユダヤ人もまた同じように憐れみを得ることが出来るというのさ。

神はすべての人を不従順の状態に閉じ込めましたが、

それはすべての人を憐れむためだったのです。

ああ、神の富と知識の深さよ。

神の定めは悟り難く、その道は窮め難い。

けっこうなこと。

では、今度わたくしも神の接ぎ木としていただきましょうかしら。

神に勝る恵みにて、その根を乗っ取ってご覧に入れましょう。
すべてのものは神から出て、神によって保たれ、神に向かっているのです。

とこしえに神に栄光がありますように。アーメン。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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