5.誘引・撃滅

エピソード文字数 1,137文字

アイでの敗北は、アカンが私欲により奉納物を取得したためであった。

それゆえ神様は怒り、イスラエルの民を敗退させた。

全イスラエルはアカンを石打ちの刑にした。

彼に属するものを火で焼き、石を投げつけた。

戦犯を裁いたっちゅうわけやな。

けど「属するもの」ってなんのことやろ。

家族もろとも死刑にした、と多くの学者は考えている。

のちのち廃れるけれど、イスラエルの古い習慣ではそうだったらしい。

このように罰を済ませて、改めてアイを侵略するんだ。
仕切りなおしやで。
ヨシュアは30,000人の勇士を選び、内5,000を町の背後に伏兵として置いた。

それは神様の指示に従うものだった。

30,000人か。

前回の失敗では3,000人やったからな。

10倍の戦力で攻めかかろうっちゅうわけか。

圧倒的だよね。

しかし今回はそれだけじゃない。

力押しに頼らず、作戦も立てられている。

5,000人の伏兵なあ。

挟み撃ちにでもするんか?

「伏兵」というのはよく待ち伏せの時に使われるね。

今回はそれと少し違って、先の展開に向けて隠しておく兵力のことなんだ。

アイの王はイスラエルの兵に気付き、戦場へと向かった。

ヨシュアは自分たちが破られたように見せかけ、アイの兵力をおびき出した。

古代中国・周の軍師太公望言うところの「奇兵」の一つやな。

『六韜(りくとう)』やと敵将を捕虜にするのが目的やったけど。

イスラエルの民はアイを徹底的に破壊して、誰一人として逃がさない。

そもそも「アイ」という言葉自体が「破滅」を意味している。

元の名前は不明だよ。

伏兵が町を占領し、煙が立ち上るのを見て、ヨシュアは攻撃に転じた。

イスラエルの兵はアイの王を生け捕りにし、ヨシュアの前に引き出した。

この絵はギュスターヴ・ドレというフランス人画家による作品でね。

『La Grande Bible de Tours』という本の挿絵として描いたらしい。

これだけ見ると、焼かれた町から逃げ出した連中に見えんくもないな。

背後の町を焼かれた連中に今から襲い掛かるぞってところか。

えげつないなあ。
その日、男女あわせて12,000人のアイのすべての人々が死んだ。

ヨシュアはアイを焼き払い、これを永久に荒れた廃墟とした。

彼はアイの王を木にかけ、夕方までさらし、日没後に死体をおろした。

しかし、とんでもなく残酷な話やな。

教会の神父さんや牧師さんも説明に苦慮するところだね。

神の名のもとに行われる残虐な行為をどう消化すべきなのか。

まあ、はっきり言って納得のいく解説なんかできっこないさ。

せいぜいが教訓染みた言葉をひねり出すだけだね。

残虐な世界をオブラートに包んだところで真実はあらへん。

綺麗事やない、生々しい声があってこその魅力があるんやろな。

ミカちゃん、悪魔みたいなことを言うね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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