12.サムソンの結婚と離婚

文字数 1,309文字

当時、イスラエルを支配していたのはペリシテ人であった。

サムソンはペリシテ人の娘を見初めて、妻にしたいと言った。

両親は反対したが、これは主によるものであった。

ペリシテ人と事を構える機会を窺っていたのだ。

悪魔に負けず劣らず、神も悪巧みがお好きなようで。

けっこうなことですこと。

今のところ悪魔はさほどのことをしていない気もするね。

せいぜい知恵の実を食べさせたくらいじゃないかな。

それはサタニャエルの仕業ではなくって?
さて、どうだったかな。
この次の場面は少し象徴的で、ちょっと解釈が難しいよ。
一頭の若い獅子がサムソンに襲い掛かった。

サムソンはその獅子を素手で引き裂いた。

その後別の場所でペリシテ人の女と会話し、また戻って獅子の死体を見た。

獅子の死骸にはミツバチの群れがいて、蜜があった。

サムソンは手でかき集め、歩きながら食べた。

ミツバチのおる中を手でさぐったっちゅうことか?

刺されへんかったんやろか。

きっと神のご加護とやらで無事だったのでしょう。
いや、それよりも何で獅子の死骸から蜂蜜が取れるかでしょ。
言われてみたらそうやな。

サムソンが離れとる間に誰かが仕込んだんやろか。

……。

聖書の読み方としては斬新だね。

何かしら象徴的なものだろうと思うよ。

正確にこれという答えが出せるものでもない。

福音主義神学会(Evangelical Theological Society)が発行している記事がある。

マルティン・エンリッヒという牧師がこの獅子と蜜について解釈を述べていた。

かいつまんでちょうだい。
要するに獅子はカナンの地で、ミツバチはイスラエル人ってことかな。

神の国に住むには神の敵を倒すしかないということを表現しているのさ。

不退転の決意や。

戦う心意気は嫌いやないで。

サムソンはペリシテ人の女と結婚し、祝宴を設けた。

三十人のペリシテ人が同席し、サムソンは彼らに謎を与えた。

麻の衣三十着、着替えの衣三十着をかけた謎掛けであった。

祝いの席で賭け事だなんて。

罰当たりな男ですわね。

いちおうこれも神の策略ってことかな。
僕の敬愛するレンブラント・ファン・レインの絵だよ。

サムソンの祝宴を描いている。

彼の描き出す光と影は僕を魅了してやまないんだ。

謎の内容はこうだ。

「食べる者から、食べ物が出た。強い者から、甘い物が出た」

これはさっき見た、獅子から蜂蜜が取れた話だね。

こんな個人的な体験を言われたって、誰も分かるわけがない。

謎をかけられたペリシテ人たちは怒り、サムソンの妻に答えを聞きだせと迫る。

それで結局どないしたんや?
ペリシテ人たちは彼女から聞きだした答えをサムソンに伝えた。

でもサムソンにすれば妻から聞きだしたのはお見通しだった。

「雌牛」(妻のこと)に頼らなければ謎は解けなかっただろうと言う。

そして何と、彼は衣を手に入れるため、別のペリシテ人三十人を殺す。

手に入れた衣を着替えの衣として、祝宴に参加したペリシテ人三十人に与えたんだ。

はぁ?

無茶苦茶やないか。

全くですわね。
掛けたのは麻の衣三十着と着替えの衣三十着でしてよ。

なのに着替えの衣三十着しか用意できないだなんて。

そこ?
サムソンは怒って実家に帰った。

サムソンの妻は彼の友人の妻になった。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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