11.武士道

エピソード文字数 1,088文字

山本常朝『葉隠』(冒頭)

武士道と云は、死ぬ事と見付たり。

(中略)

毎朝毎夕、改めては死々、常住死身に成て居る時は、武道に自由を得、一生落度なく家職を仕課(しおお)すべき也。

『ヨハネによる福音書』第12章25節

自分の命を愛する者はそれを失い、

この世で自分の命を憎む者は、それを保って永遠の命に至る。

山本常朝(やまもとつねとも)。江戸時代中頃の佐賀藩士ですわね。

神道、儒教、仏教の学問に秀で、藩随一の学者と呼ばれたそうな。

武士道とは死ぬことと見つけたり。

格闘ゲームの『サムライスピリッツ』で聞いたわ。

『葉隠』の語る死は、決して美しく死んで来いとかいう意味じゃない。

死を意識することで日々の選択をより良いものにするという意図がある。

それが明治以降の「武士道」によって形を変えてしまった。

例えば明治天皇崩御に際して乃木希典が殉死すると、それこそ武士道だと言われた。

死はとても魅惑的ですものね。

仕方ありませんわ。

死を貶めるのはあかんけど、無責任に称えてええもんちゃう。

とは言え、死を意識することで毎日充実できるってのは分かる気ぃするな。

アップルコンピュータのスティーブ・ジョブスも似たようなこと考えてたらしいやん。

今日が人生最後やとしたらって考えて、生き方を見つめなおすんや。

ではこの聖書の一節も似たような意図かしら?
完全にイコールとはいかないし、色々な説がある。

聖書の中で細かく解説されていないから、実際どうなのかは分からない。

人によっては、これは自己犠牲の精神を称えるものだと言う。

「自分の命を愛する」とは、目先の生にしがみつくとも言える。

それによって「永遠の命」、より優れた生からは遠ざかる。

イエス様自身がこれから死のうって人やしな。

身を持って証明するわけや。

命を惜しまんことで、キリスト教の種を蒔いたってことを。

ちなみにギリシア語の原典では「命」に二つの単語がある。

「自分の命」ではプシューケー(psychēn)

「永遠の命」ではゾーエーン(zōēn)となる。

プシューケーは「息」や「精神」の意味を持つ。

まさしく個人的な命というわけでしてよ。

心理学(psychology)等の語源でもあります。

それに対し、ゾーエーンはより抽象的な意味での「命」となりますわ。
もし一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それは一粒のままである。

しかし、死ねば、豊かな実を結ぶ。

勝手な解釈やけど、自分ひとりのためやのうて、人のために生きろってことなんかな。

他人から離れて自分だけを守ろうとしても長続きせえへん。

皆で団結してようやく自分の命と、みんなの命が長らえるんや。

「超人」からは随分と遠い生き方ですこと。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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