22.楽園

文字数 1,346文字

イエスは十字架刑への道を歩く。

その道には他に、二人の犯罪人がいた。

兵士たちはイエスを中央にして、左右に犯罪人を並べて十字架につけた。

その時、イエスは仰せになった、

「父よ、彼らをお赦しください。彼らは自分が何をしているのか分からないのです」。

これもそれなりに有名なセリフだね。

自身が殺されるという場面においても、他者への慈悲を示す言葉だ。

あら、そうでしたの?

わたくし、てっきり他人を小ばかにする言葉かと思っていました。

何せ、文句たらたらのキリスト教徒が他者に向けてよく使うものですから。

色んな人がいるからね。

そういう人がいないとは言わないよ。

同じ言葉でも時と場合によって意味が変わってくる。

よくあることさ。

二人の犯罪人とイエスは並んで磔にされた。

すると一人の犯罪人がイエスを侮辱し始めた。

犯罪人の一人が、イエスを侮辱して言った、

「お前はメシアではないか。自分とおれたちを救ってみろ」。

なんやこいつ。

自分は悪いことして死刑なんやから、自業自得やろ。

イエス様に救えとか、おこがましいわ。

もう一人の犯罪人も、ミカちゃんと同意見みたいだよ。
もう一人の犯罪人が彼をたしなめて言った、

「お前は同じ刑罰を受けていながら、まだ神を畏れないのか。

われわれは自分のやったことの報いを受けているのだからあたりまえだが、

この方は何も悪いことをなさってはいない」。

犯罪人たちは磔刑前には散々なぶられるものでしょう?

周囲の喧騒もある中、随分と元気に会話できるものですこと。

ドラマティックな場面やからな。

最後の力を振り絞っての会話かもしれへん。

イエスを擁護した犯罪人は死後の復活を願っていたのだろう。

イエスに対して、「わたしを思い出してください」と頼む。

するとイエスは、今すでに自分とともに楽園にいるのだと言った。

楽園入りは確約されたも同然やな。

これは嬉しい返事やろ。

楽園はギリシア語のパラデイソス(paradeisos)で、その意味は「庭園」ですわね。

その元は古代ペルシアの宮苑パイリダエーザ(pairidaēza)。

これは「塀で周囲を囲んだ」という意味になるのだとか。

楽園ってのは宮廷のお庭みたいなイメージやったんかな。
これは世界遺産にも登録されているエラム庭園。

19世紀頃のガージャール朝時代に造られた新しいものだけどね。

有名なペルシャ式庭園で、その名も「楽園の庭」を意味する。

めっちゃ綺麗やん。

花の色が左右で違うんも不思議な感じで好きやわ。

これはタージ・マハル。

皇帝シャー・ジャハーンが愛妃ムムターズ・マハルのために建設させたという。

造りは確かにエラム庭園に似ております。

他には遺跡として残る、パサルダガエ庭園なんかがある。

パサルダガエはアケメネス朝ペルシアの首都だ。

これはペルシャ式庭園では、最古の庭園だと言われている。

そして次に見る写真はパキスタンのジャハーンギール廟だ。

これら庭園の肝となるのはチャハルバーグ(Charbagh)と呼ばれる構成だ。

ゾロアスター教の4元素「水」「土」「空」「火」を表している。

それによって楽園を表現していて、見方によってはエデンの園とも言えるね。

つまり、元々楽園を表現する意図で庭園を造った。

そしたらその庭園って言葉自体が楽園って意味になったんか。

なんか、面白い感じになっとるな。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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