5.ダビデからソロモンへ

エピソード文字数 1,250文字

神様がダビデに言った。

「お前は多くの血を流し、大きな戦争を度重ねた」

「わたしの名のために神殿を建てるのはお前ではない」

歴史的に、エルサレムには二度、神殿が建てられたと言う。

その最初の神殿がソロモン神殿だ。

後に建てられた神殿と区別して、第一神殿とも呼ぶね。
そういや『サムエル記』でソロモンが神殿建てとったな。

せやけど、その前にダビデが神様に「お前ちゃう」言われとったんか?

神殿は神聖なもので、血で穢れたダビデが建てるのは相応しくないってことだね。
ソロモンはソロモンで随分と粛清を行っていましたわよ?
……。
なんですの、この白い物体は。
彼女の名はシャロウムちゃん。

日本国イスラエル大使館のマスコットキャラさ。

その名は「こんにちは」と「平和」を意味するシャローム。

それに鳥のオウムを掛けたものなんだ。

かわええなあ。

会うてみたいわ。

この肉がどうかしまして?
キャラクター自体はご愛嬌さ。

僕が言いたかったのはソロモンという名前についてだ。

ソロモンとシャローム。

響きが似ているだろう?

実はソロモンという名はシャロームの派生語らしい。

なるほど。

確かに、口に出してみると発音似とるな。

要するに、血で穢れたダビデとの対比というわけね。

戦争がひと段落し、ソロモンは平和の象徴である、と。

そうだね。

戦闘に長けた人物が必ずしも平和の時代に適した政治が出来るわけじゃない。

むしろ戦争し続けることでしか治めきれないなんてことにもなりかねない。

武断政治から文治政治への転換は重要なイベントだ。

ソロモンという名前にはそうした意味もある。

ダビデはソロモンに神殿建設の任を与え、彼を王とした。

ダビデの息子たちもみなソロモン王の支持を誓った。


ダビデの子の一人、アドニヤはどないしたんや?

アビシャグを巡ってソロモンと対立しとったやろ。

そんな対立は無かった。

言っただろう?

彼の名前はシャローム、即ち「平和」と繋がっているって。

けれど、後には偶像崇拝を始めるのでしょう?

それで神の怒りを受けて、イスラエル王国が南北に分裂したのではなくて?

もちろんイスラエルは分裂する。

それは歴史的な事実だからね。

けれどソロモンは立派な王様なのさ。

彼は偶像崇拝など一切行わず、常に神と共にあった。

すこし『歴代誌下』に入ったけどね。

『サムエル記』と大きく異なり、ソロモンは優れた王とされている。

おかげでダンテの『神曲』では天国に行けたのかな。

なんでそないに違うてしもたんや?
それはきっと『歴代誌』が新しい世代のユダヤ人に向けられたものだからだね。

罪や罰を戒めとして語るよりも、より未来への希望に向けた内容を求めたんだと思う。

確かに、今までの聖書は滅びの理由ばかりでしたもの。

そんなものばかり読まされれば、自分たちの現状を肯定するようなものですわ。

おかげで『歴代誌』は『サムエル記』や『列王記』に比べて随分と薄味だけどね。

禍々しいものがあまり見当たらない。

ユダ王国滅亡の原因とされた王マナセについても改変が施されている。

彼でさえ最後には主への信仰に目覚めたとされるんだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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