7.聖ロンギヌス

エピソード文字数 1,599文字

エルサレム滅亡の預言からユダ・イスカリオテの裏切り。

ゲッセマネにおける祈りに、イエスの逮捕と裁判。

『マルコによる福音書』は『マタイによる福音書』と同じ話が進んでいく。

そして茨の冠と深紅のマントを着せられ、イエスはなぶり者にされる。

その後また元の衣服にされて、十字架につけられた。

冠とマントは王様の恰好を模したんやな。

イエス様を「ユダヤ人の王」と言って馬鹿にするためや。

イエスは大きな叫び声をあげて、息を引き取られた。

その時、聖所の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けた。

イエスの近く、その正面に立っていた百人隊長は、

イエスがこのように息を引き取られたのを見て言った、

「まことに、この方は神の子であった」。

百人隊長は処刑人だか、処刑の確認者ではなくて?

その彼が、何故にイエスを「神の子」などと持て囃すのかしら。

彼こそは盲目の戦士、聖ロンギヌス。

イエスの脇腹に槍を突き刺し、その血を浴びることで視力を取り戻したという。

それにより改心し、洗礼を受けてキリスト教徒となったと言われる。

ロンギヌス言うたら、ロンギヌスの槍で有名なあの!

『新世紀エヴァンゲリオン』にも登場しためっちゃかっこいい槍。

まがりなりにもイエスは神。

その神を突き殺した槍ということで、随分と箔が付いたようですわね。

神殺しの槍だなどとも言われますわ。

ロンギヌスの槍は「聖槍」とか「運命の槍」とも呼ばれる。

英語で「Holy Lance」、中国語だと「命運之矛(mìng yùn zhī máo)」

ロンギヌスは日本のアニオタの多くが知る。

けれど、福音書の正典にその名は記されていないんだ。

『ニコデモによる福音書』第7章8節

戦士ロンギヌスは彼の槍を持ち、イエスの脇腹を貫いた。

するとすぐ、血と水が流れ出た。

ニコデモさんやないか。

前にユダの話で、鶏が生き返ったとかなんとか話してた。

初期キリスト教においてロンギヌスは聖人認定されていない。

むしろイエスを殺した罪人として扱われている。

4世紀の偽典『ピラトに宛てたヘロデの手紙』に記されている内容はこんな感じだ。

『ピラトに宛てたヘロデの手紙』より

主のみ使いはロンギヌスの頭を掴み、ヨルダンの荒野へと連れ去った。

そしてライオンのいる洞窟に放り込んだ。

ライオンはロンギヌスが倒れるまで傷つける。

そしてライオンが離れるとロンギヌスは癒され、同じことが繰り返された。

(『The Other Gospels: Accounts of Jesus from Outside the New Testament』Bart D. Ehrman 参照)

蘇らせては殺しの繰り返し。

素敵な拷問ですこと。

残虐やなあ……。

ロンギヌスさんは仕事でやっただけやのに。

死刑執行人は忌み嫌われる。

ルイ16世やマリー・アントワネットをギロチンにかけたサンソンは有名だね。

彼の家系は拷問技術にも詳しく、それにより医術にも長けていた。

栄誉ある地位ではあったけれど、その存在を恐れられもしたのさ。

汚れ役を他人に押し付けて自分たちは潔白と。

己の罪に無自覚な連中こそ、わたくしの部屋に招くに相応しいですわね。

ゆえなく他者を貶し、自らを高尚と宣う者に、天の門が開かれることはございますまい。

後にロンギヌスはキリスト教に改宗したと言われる。

けれどそうした記録が残されているわけではない。

盲目という話も10世紀頃までされていなかった。

おそらく、聖槍に絡めて人物像が徐々に作られていったんだろう。

そしてこれがジャン・ロレンツォ・ベルニーニ作の聖ロンギヌス。

バロック期のもので、ギリシア神話の神かと思うくらいの威風だ。

めっちゃ強そうやな。

これ、ポセイドンの像です言うたら、皆信じるやろ。

長い時を経ることで作り上げられた聖人。

それはすでに神話の神や、わたくしたち悪魔と同等の存在やもしれません。

そしてイエスは死に、蘇り、使徒に使命を与えた後、神の右の座に着いた。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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