33.カエサルのものはカエサルに

エピソード文字数 1,409文字

ファリサイ派とサドカイ派は対立していた。

しかし、イエスをどうにかやり込めたいという点で両者は一致していた。

共にイエスに対して論戦を挑んでくる。

すでに何度も言い負かされておりましょうに。

こりぬ草どもだこと。

ファリサイ派たちは「ローマ皇帝に人頭税」を納めることについて尋ねた。

それは果たして許されているのか、いないのかとね。

税金は払うの当たり前やん。

「許されていない」とか言うたら問題になるで。

しかしローマ皇帝はユダヤの神を信じていない。

そんな人間に税を払うことは許されないと考える人もいた。

イエスがどちらを答えても問題になる。

ファリサイ派たちの狙いはそこにあった。

答えられぬのであれば、黙っていればよろしくてよ。

相手の土俵に立つ必要などありません。

せやけど、それやと相手に好き勝手言われそうやなあ。
そこで有名な言葉が出てくる。

「カエサルのものはカエサルに」

これは人頭税に納めるための銀貨はローマ製であることによる。

そこにはカエサルの肖像が刻まれていた。

なるほどやで。

税金言うて、それは元々カエサルのもんやったっちゅうことか。

そして「神のものは神に」と言った。

神の肖像なんかあるわけないし、見方によっては全部神のものだけどね。

ともあれ、ファリサイ派たちは思うように言い負かせなかったので退散した。

しかし同じ日、今度はサドカイ派たちが現れた。

サドカイ派は「復活」も「天使」も存在しないと言う人たちだ。

彼らは復活後の婚姻関係について質問した。

仮に一人の女性が、夫の死により夫の兄弟の妻となった場合、

復活後はいったい誰の妻になるのか、と。

え?

復活後も婚姻関係って続いてるん!?

そんなことはない、とイエスは論じた。

復活の時、人は娶ることも、嫁ぐこともない。

天の使いと同じようだと言うわけだ。

サドカイ派はあっさり論駁されましたわね。

「復活」という相手のフィールドにおいそれと乗り込むから。

サドカイ派が言い込められたので、またファリサイ派たちがやって来た。

そこでイエスに対し、律法で最も重要な掟は何かと尋ねた。

イエスは答えて仰せになった、

「『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、

あなたの神である主を愛しなさい』。

これが一番重要な、第一の掟である。第二もこれに似ている。

『隣人をあなた自身のように愛しなさい』。

すべての律法と預言者は、この二つの掟に基づいている」。

こうした論戦を経て、イエスは逆にファリサイ派に問う。

すなわち、「メシアは誰の子か」と。

ファリサイ派は「ダビデの子です」と答えた。

ダビデ自身は救世主と言うよりも戦士だ。

数々の戦いに勝利し、イスラエルを強い国にした。

そんな彼の子こそが救世主という考えはやや剣呑な空気を孕んでいた。

救世主とはダビデのごとき戦士である。

となれば、いずれローマ帝国とも対立し、イスラエルを独立国へと導く。

そのような期待があるとなれば確かに剣呑。

だからイエスも明確な回答を避けた。

次の『詩編』を引用することで相手を黙らせたんだ。

『詩編』第110章1節

わたしの主への主の託宣、

「わたしの右に座れ。わたしはお前の敵をお前の足台にしよう」。

わたしの主への主の託宣……。

救世主への神の託宣ってことか。

ダビデは救世主、メシアを主と呼んでいる。

なのにどうしてメシアはダビデの子なのか。

そう問われて誰も答えることはできなかったと言う。

メシアはダビデのような戦士ではない。

そしてダビデが主と仰ぐほどの者となる。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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