26.最初のキリスト教国家

エピソード文字数 1,351文字

マルタは地中海中央、イタリアのつま先の少し先にある小さな島だ。

けれど現在はれっきとした国で、マルタ共和国を名乗っている。

その歴史は深く、紀元前3000年頃には巨石神殿を建てるような文明があった。

かの有名な聖ヨハネ騎士団は、後にマルタを拠点としてマルタ騎士団とも呼ばれたんだ。

現代でさえその人口は40万人そこそこ。

日本で最下位の鳥取県でさえ50万人を超えていますわよ。

それでいての重要度は、やはり地理的要因なのかしら。

地中海ではローマの玄関口とも言える位置にあるしね。

日本で言うなら壱岐、対馬のあたりになるのかな。

交流の拠点でもあり、また戦乱の舞台でもある。

パウロは暴風、エウラキロンに遭いながらもどうにかマルタに漂着したんやな。

そんでから、どないしたんや。

火を焚いて暖を取っていたところ、蝮が出て来てパウロに咬み付いた。
ひぇっ。

せっかく難を逃れたんに、蛇の毒でやられてまうやないか。

なんちゅう不運な。

住民たちは互いに言った、

「この人はきっと人殺しだ。

海の難からは逃れたが、正義の女神はこの人を生かしてはおかないのだ」。

ここでの正義の女神はディケーのことですわね。

秩序の女神エウノミアー、平和の女神エイレーネーを含め、ホーラ女神三姉妹。

蝮に咬まれたのは因果応報であるように考えたのでしょう。

しかし予想に反してパウロはまったく平気に振る舞った。

毒で苦しむなり、死んでしまうと思われていたのにね。

これに住民は驚き、パウロを神かのように言ったのさ。

最初はなんか悪いことしたんちゃうか思われたのになあ。

事故をむしろ自分の利益にしてまうなんて、さすがやな、パウロ。

その後、パウロは島の長官プブリウスに歓迎された。

その際にプブリウスの父親が熱病と下痢で倒れてしまった。

そこでパウロが祈り、手を置くと病が癒えていった。

島にいる他の病人も癒して、パウロたちはとても尊敬されたと言う。

そのおかげか、プブリウスはキリスト教に回心した。

このあたりのことは『使徒言行録』には書かれていない。

プブリウスはマルタにおける最初の司教になった。

カトリック教会では、マルタは最初のキリスト教国家の一つとも言われている。

それを示す文献も考古学的資料も存在はしないんだけどね。

(Bradt Malta and Gozo (Bradt Travel Guides) 参照)

小さい島国でも立派な歴史のある国やからな。

1989年に東西冷戦終結の会談の舞台になったんもマルタなんや。

そこが最初のキリスト教国家やったとしても、何も文句あらへん。

パウロは三か月ほどマルタに滞在した。

時期的には2月とか、そのくらいかな。

そしてローマに到着し、監視付きではあるけれど、一人暮らしが許可された。

そこに住むユダヤ人たちにイエスの教えを説き、宣教に務めたと言う。

ここで『使徒言行録』はお終いだ。

その後の物語は別のところで語られる。

伝承によって内容は変わるけれど、ローマで処刑されたと信じられているね。

剣で首をはねられたんだ。

そのため、絵画なんかだとパウロの象徴として剣がよく描かれている。

パウロは、自費で借りた家にまる二年留まり、訪れてくる者をみな迎え入れ、

少しもはばかることなく、また妨げを受けることもなく神の国を宣べ伝え、

主イエス・キリストについて教え続けた。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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