4.黙示録のラッパ吹き

文字数 2,467文字

巻物の封印は順次解かれていく。

最初の四つで黙示録の「馬にまたがった者たち」が現れた。

第五の封印はキリスト教殉教者たちの、裁きに対する催促だ。

「聖なるまことの主よ、あなたは、いつまで裁きをなさらず、

地上に住む者たちに対する、わたしたちの血の復讐をなさらないのですか」

自分たちを殺した者への復讐かしら?

欲望を剥き出しにしたその姿、嫌いではありませんわよ。

そういった個人的なものではない、と言われている。

地上の悪人に対する正当な裁きを下してほしいということさ。

そして第六の封印が解かれると、地震が起き、天の星が地上に落ちる。

さらに第七の封印が解かれた時、「天はおよそ半時ほど沈黙に包まれた」

「沈黙」とは神の現存を示す徴か、救いをもたらす神の特別な介入か……。

あるいは大いなる主の日の到来の徴であると言われている。

『沈黙』というタイトルの小説がありましたわね。

江戸時代初期におけるキリスト教弾圧を描いた。

あの「沈黙」にはそうした意図があったのかしら。

そうかもしれへんな。

『沈黙』には日本人キリスト教徒からめっちゃクレーム着たらしいけど。

遠藤周作自身キリスト教徒なんやし、そのへん意識してそうやわ。

その後、わたしは神の前に立っている七人のみ使いを見た。

彼らに七つのラッパが与えられた。

終末のラッパですわね。

このラッパはギリシア語でサルピンゴス(salpingos)

名前の通りであれば、細長い銅製の管楽器でしてよ。

七人の天使か。

誰のことなんやろ。

『黙示録』ではただ「み使い」としか言われていない。

ただ、それとは別に「七大天使」という考え方がある。

『トビト記』でトビトを助けた天使にそれを示す台詞があったね。

『トビト記』第12章15節

わたしは栄えある主の前に立ち、行き来する七人の聖なる使いのひとりラファエルです。

そういうわけでラファエルが含まれているのは間違いない。

他にミカエル、ガブリエル、ウリエルを含めて四大天使だ。

その四大天使にあと三人の天使を付け足すのだけれど、書物や宗派によって変わる。

あと、一部ウリエルを含まないといった変則的なところもあるらしい。

ただ、名前がある方が楽しいだろう?

ここはあくまで一例として、偽典『エノク書』に記された天使の名を紹介しよう。
『エノク書』第20章1-8節(※筆者による英文からの和訳)

これらは観測する天使たちの名である。

ウリエル、聖なる天使の一、世界と冥界(タルタロス)の上にある者。

ラファエル、聖なる天使の一、人々の魂の上にある者。

ラグエル、聖なる天使の一、光の世界に復讐する者。

ミカエル、聖なる天使の一、すなわち、最良の人々の長にして、混沌を覆す者。

サラカエル、聖なる天使の一、魂の長にして、魂において罪なす者。

ガブリエル、聖なる天使の一、楽園とヘビとケルビムの上にある者。

ラミエル、聖なる天使の一、神がよみがえる者たちの上に置かれた者。

これが七人のみ使いですのね。

お姉さまもいらっしゃいましてよ。

なんせ、天軍の長やからな。

そらもちろんおるで。

第一の者がラッパを吹き鳴らした。

すると、血の混じった雹と火が生じて、地上に投げ落とされた。

陸地の三分の一は焼け、樹木の三分の一も焼け、青草もことごとく焼けてしまった。

何しとんねん。
すごいよね。

悪魔だってこんなひどいことしないよ……。

なんてね。

今さらな感想だ。

神や天使は悪魔よりも多くの人々を殺してきたんだ。

それが久々に『黙示録』で描かれただけだね。

第二のみ使いがラッパを吹き鳴らした。

すると、燃える大きな山のようなものが、海に投げ込まれ、

海の三分の一は血と変わり、海の中の被造物で命あるものの三分の一は死に、

船も三分の一が破壊されてしまった。

山のようなもの?

巨大な岩か何かかしら。

『黙示録』の議論に過去派と未来派があったね。

未来派の中にはこれを小惑星の地球衝突と考える人がいる。

もしそんなことが起きたら、それを聖書と結び付けて考える人は確実にいるだろう。

第三のみ使いがラッパを吹き鳴らした。

すると、松明のように燃え盛る巨大な星が天から落ちた。

それは川という川の三分の一と、それらの水源の上に落ちた。

この星の名は「苦よもぎ」といい、川という川の三分の一が苦よもぎのように苦くなった。

そのために多くの人が死んでしまった。

「苦よもぎ」って何かの比喩表現やろか。

食べ過ぎたら体に悪いみたいやけど、死ぬほどのもんとちゃうで。

食品添加物にも使われとるし。

第四のみ使いがラッパを吹き鳴らした。

すると、太陽の三分の一と、月の三分の一と、星の三分の一が打たれた。

そのため、これらのものの三分の一が暗くなったので、

昼はその光の三分の一を失い、夜も同様であった。

それぞれ三分の一とは、微調整が大変そう。

しかし月は太陽の光を反射しているのです。

太陽の三分の一を打てば、月は放置しても構わないのではなくて?

第五のみ使いがラッパを吹き鳴らした。

すると、わたしは、一つの星が天から地上に落ちるのを見た。

この星には、底知れぬ淵に通じる縦穴を開く鍵が与えられた。

落ちた星か……。

堕天使ってことなんやろなあ。

その落ちた星が縦穴を開くと、中からイナゴの群れが出てきた。

そのイナゴは人間のような顔をしていて、獅子のような歯を持っていた。

そして「底知れぬ淵の使い」アバドンを王として戴いたと言う。

第六のみ使いがラッパを吹き鳴らした。

そして、神の前にある金の祭壇の四つの角から出た一つの声をわたしは聞いた。

この声はラッパを持っている第六のみ使いに言った、

「大河ユーフラテスのほとりに縛られている四人のみ使いを解き放せ」。

それは人類の三分の一を殺すためだった。

「万の二万倍」とかいう途方もない数の騎兵を率いている。

その騎兵が乗る馬も、「獅子の頭」「口からは火と煙と硫黄」なんて表現されている。

かなりおっかない連中だよ。

第七のみ使いがラッパを吹き鳴らした。

すると、さまざまな大きな声が天に起こって、こう叫んだ、

「この世の国は、わたしたちの主と、そのメシアのものとなった。

メシアは代々限りなく支配される」。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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